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卸売業の管理職育成を個人の成長ではなく上司と部下の関係で見直す

業界別活用法11
著者: アーテリジェンス編集部
卸売業の管理職育成を個人の成長ではなく上司と部下の関係で見直すの内容を表すビジネス研修のイメージ

# 卸売業の管理職育成を個人の成長ではなく上司と部下の関係で見直す

最終更新日:2026年9月13日

人的資本経営の広がりを受けて、育成に投じた費用が組織の力にどうつながったかを社内外に説明する場面が増えています。卸売業では、営業と物流と商品管理をまたいで現場を回す管理職の育成が、その説明の中心に置かれることが多いのではないでしょうか。拠点数の多い卸売企業では管理職の役割が年々広がり、対象者もテーマも増えて研修の本数が積み上がっています。一方で、実施した研修が営業所の日常にどう残ったかは、人事の手元からは見えにくくなっています。年に1回の管理職研修を続けながら次の施策を考えている人事・人材育成の担当者にとって、この見えにくさは避けて通れないところです。それでは、卸売業の管理職育成について、成果がどこに現れるのかという観点から掘り下げていきましょう。

この記事の要点

  • 卸売業の人事部は管理職研修を計画どおり実施しているが、受講後に現場で何が変わったかを確かめる手立てを持ちにくい。
  • フォローとして動画や資料を配る対応は実施の記録を残せる一方で、拠点で起きていることは映さない。
  • 成果の現れる場所を受講者個人の内側ではなく職場でのやりとりの側に置き直すと、人事が見るものと打つ手が変わる。

高評価の管理職研修が現場に定着しない場面

手元から見えにくくなっているものは、どこで起きているのでしょうか。全国15の営業所の所長と課長を集めた年1回の管理職研修を、仮の場面として開いてみます。食品・消費財卸の営業所では、課長が自分の担当得意先を持ちながら営業担当と受発注の事務の両方を見て、物流センターや商品部との調整も担っています。歳暮期や年末は物量が集中し、面談のようにまとまった時間を要する予定は真っ先に後回しになります。

研修を足して記録を残す対応

人事は年1回の管理職研修に加えて、フォロー用の動画教材と資料を全拠点へ配信し、受講直後のアンケートで理解度と満足度を確認します。日程調整も確認も人事の手元で完結し、拠点に新たな負担をかけずに実施の事実を残せるため、自然な選択になります。同じ手順を取っている会社は珍しくありません。

例えば、配信された教材は、商談と、注文された商品の在庫が足りないときの手当てと、配送の手配が重なる営業所で、開かれないまま期限を迎えます。在庫が足りないときの手当ては、得意先への連絡と代替品の手配を同時に進めるため、日中の時間が読みにくくなります。評価期末の面談は忙しさと気まずさから後回しになり、部下は評価の理由が分からないまま賞与の明細を受け取ります。受講直後の評価は高く、3か月後に拠点を訪ねても、学んだ面談の進め方が日常に現れていない。この差は、どこから生まれているのでしょうか。

行動が営業所で成立しない理由

研修で扱った面談や振り返りの行動は、課長1人の意思だけで成立するものではありません。部下との予定の取り方や周囲の関与といった職場側の条件が揃って初めて、実務に現れます。同じ手を毎年重ねても、この条件が拠点に揃っているかどうかは手つかずのまま残りやすいところです。人事が測っているのは受講者本人の理解と満足であり、条件の有無は手元のデータに映りません。

この測り方は、多くの企業で共通しているようです。研修の効果検証に関する調査では、効果検証を行う企業は多いものの、職場での行動変化や態度変化を多くの研修で確認している企業は45.5%にとどまり、測定方法は受講者本人へのアンケートが7割強を占めると報告されています (*1)。この調査は企業の教育担当者に検証の実施状況を尋ねたものです。本人に尋ねる限り、部下の側で何が起きたかは集まりません。

研修の成果はどこに現れるのか

本人に尋ねても職場側の条件は映らないのだとすれば、何を単位に見ればよいのでしょうか。ここでは、上司と部下の一組を単位に見る、という焦点の置き方を提案したいと思います。この記事だけの呼び方として、課長とその部下1人の組み合わせを「一組」と呼ぶことにします。管理職育成の成果を、受講した課長個人がどれだけ理解したかではなく、その課長と部下1人のあいだで交わされるやりとりがどう変わったかとして捉えてみると、どうでしょうか。この見方に立つと、研修が働きかける対象は受講者の頭の中ではなく、受講者と部下のあいだにある関係になります。人事が確かめる先も、本人から相手側へ移ります。分類や項目を増やす話ではありません。同じ研修を見るときの単位を、1人から2人に変えるだけの置き換えです。

この単位で先ほどの場面を眺め直すと、見えるものが変わってきます。評価期末に面談が省かれた場面は、課長の能力が足りなかった結果ではなく、その課長と部下のあいだに短いやりとりが1度も起きなかった結果として読めます。すると人事が用意すべきものは、面談の型をもう一度教え直す機会ではなく、2人のあいだに最初の1往復が起きる条件のほうだ、という見方もできます。

この焦点の置き方が卸売業の営業所に合うのは、課長が自分の担当得意先を持ちながら部下と同じ場所で動いているからです。まとまった面談時間を確保するより、短いやりとりの回数を増やすほうが現実に動かしやすいという事情があります。一組を単位に見る見方は、時間が取れない前提のまま打ち手を置ける点で、研修の内容を磨き込む方向とは別の道を示します。

研究の側も同じ方向を向いています。多くの実証研究を集めて集計した分析では、研修で学んだことが職場の行動として現れるかどうかには、研修の内容だけでなく受講者の特性や職場の環境、研修の前後の設計が関係すると整理されています (*3)。個人の学びの質だけを問う見方から、職場側の条件を設計対象に含める見方へ広げる後押しとして読み取れます。

上司と部下の一組で試す機会をつくる

一組という単位は、次回の管理職研修の設計で扱えます。設計時点でできることは3つあり、いずれも新しい仕組みを立ち上げる話ではありません。

受講前に相手を1人決める

1つ目は、研修の受講前に、受講する課長自身に部下を1人だけ決めてもらい、その相手との間で次の1か月に交わすやりとりを1つに絞って持ち帰ってもらうことです。テーマを広く持ち帰るより、相手と場面を1つに絞るほうが、繁忙のなかでも実際に起きる確率が上がります。3つ目は、やりとりを試す前に、言い回しを安全に練習できる機会を挟むことです。気まずさで踏み出せない場面は、いきなり本番で越えるより、先に一度通しておくほうが越えやすくなります。

本人の感想ではなく相手の観察を集める

2つ目は、3か月後に人事が尋ねる先を、受講者本人からその部下と上長へ移すことです。何が変わったかを広く尋ねるのではなく、その1つのやりとりが起きたかどうかを1問だけ尋ねます。設問を1つにすれば拠点の負担は小さく、集計の手間も本人アンケートと大きく変わりません。ここが、満足度の集計とは別の材料が手元に残るかどうかの分かれ目になります。

具体的には、こう進みます。営業所の課長は、受講前に評価の理由を伝えきれていない部下を1人挙げ、次の1か月で担当得意先の引き継ぎについて15分だけ話す、という形で場面を決めておきます。3か月後、人事の手元には、その部下から返ってきた「その話をしたかどうか」という短い回答が15拠点分そろい、拠点ごとの差がそのまま次の設計の材料になります。

手数としては小さいのですが、この領域はまだ空いているようです。研修のオンライン化に関する調査では、研修後に上司と議論する機会や、実践したかどうかを確認して振り返る機会が成果につながりやすい一方、そうした研修後のフォローを行っている企業は4割程度にとどまると報告されています (*2)。この調査は企業の人事部門と受講者に研修の実施状況を尋ねたものです。相手を決めて尋ね直すという進め方は、多くの企業でまだ試されていない手前にあります。

一組の変化が営業所全体に広がるまで

15拠点分の短い回答が手元にそろったとき、そこから何が見えてくるでしょうか。15分のやりとりが1度起きると、部下は評価の理由を賞与の明細より前に知ることになります。課長の側にも、次の場面で声をかける手がかりが残ります。人事の手元には満足度の集計ではなく、どの拠点でどのやりとりが起きたかという情報が残るため、経営から成果を問われたときに、研修の実施本数ではなく現場で増えた行動の側から説明できるようになるでしょう。配った動画や資料では、拠点の日常に最初の1往復を起こすところまでは届きませんでした。この進め方なら、その点に手が届く可能性があります。

一組で起きたやりとりが拠点内で話題になれば、次の段階では営業所どうしで持ち寄り、どの場面で声をかけにくいかを共有する取り組みへ進められます。学習定着を個人の努力に委ねず、拠点をまたいだ継続学習の形に育てていく道筋が開けるでしょう。

歳暮期のように物量が集中する時期に研修後の実践期間が重なっても、場面を1つに絞った短いやりとりであれば、まとまった面談時間を空けずに回せます。拠点ごとに得意先の構成も人員も違うという事情についても、一組を単位にすれば、全社一律のフォローを敷かずに拠点の実情に合わせられます。

反復の場としてのAIビジネストレーニング

拠点をまたいで持ち寄る段階まで進むには、15の営業所で同時に練習の機会を用意できることが要ります。これまで使われてきた手段は、それぞれ向く場面と届きにくい場面を持っています。集合研修は講師と受講者が向き合える一方、年1回の日程調整が限界で、言い回しの練習を何度も繰り返す場にはなりにくいところがあります。eラーニングや動画配信は全拠点へ同時に届けられますが、視聴の記録は残っても相手のいる練習にはなりません。拠点任せのOJT、つまり日々の仕事のなかで先輩が指導する形では、課長自身が練習相手を頼める相手を持たないという事情があります。

株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニング「ミチビカ」は、AIとの対話で対人の場面を反復するトレーニングです。AIを相手にした役割演技を通じて、評価の理由を伝える場面や引き継ぎを切り出す場面を、本人の都合のよい時間に何度でも試せます。受講前に決めた相手と場面をそのまま持ち込み、気まずさで止まりやすい最初の一言を事前に通しておけることが、営業所で1往復が起きる確率を押し上げます。15の営業所で同時に練習の機会を用意することは講師の日程では支えきれませんが、この形なら拠点差を残したまま同じ期間で回せます。なお、同じ顔ぶれで期間を区切って学ぶ形は最後まで続きやすいと一般にされており、期別のまとまりで運用する進め方はその考え方に沿っています。

受講半年後に受講者の上司へ行ったアンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%超でした(当社調べ)。受講3か月後の時点では78%です。これは受講者本人の自己申告ではなく上司による他者評価であり、本人アンケート中心の測り方とは別の角度から現場の変化を捉えている点が、今回のテーマと重なります。なお、この数値は今回の業種や研修テーマに限らない全体の集計です。

対話で練習するため静かな受講環境が要りますが、自宅や個室からの受講を前提に設計でき、既存の集合研修のフォローアップとして組み込む形にも対応できます。管理職向けのマネジメント研修コースは、研修は実施できているが受講後に現場で何が変わったかを説明しにくい人事部に向いています。受講後に現場で何が変わったかを説明できる形にしたい場合は、管理職向けコースの設計例と実施の進め方をご案内していますので、お気軽にご相談ください。自社の営業所の場面に合わせたケースの作り方は、資料でもご確認いただけます。

管理職育成を明日の一往復から見直す

練習の機会が15拠点で同時に用意できるとなると、あとは最初の相手を決めるところから動き出せます。ここまでたどってきたのは、管理職育成の成果を受講者1人の内側ではなく、その人と部下1人のあいだに置いて見るという1点でした。この置き換えを済ませると、人事の手元に残るのは満足度の集計ではなく、練習した言い回しと、相手側から返ってきた短い回答と、どの拠点でどのやりとりが起きたかという記録になります。育成に投じた費用の成果を社内外へ説明する場面で示せるのは、その記録です。

営業所の課長は、配送の手配が立て込む夕方に部下を呼び止めるのをやめ、翌朝の15分を確保し直しました。売上の数字ではなく、担当得意先の引き継ぎで何をどこまで任せたいかという期待水準を、事実とともに伝えました。いつまでに一度確認するかも、その場で決めています。人事の育成担当は3か月後、その部下から返ってきた1問の回答を15拠点分並べ、次の管理職研修で扱う場面を決めました。

毎年の研修を回しながらここまで考えてこられたこと自体が、すでに次の設計の土台になっています。次の研修の案内文に、受講者が思い浮かべる相手を1人書き込む欄を足すところから始められます。ぜひこの記事でご紹介した進め方は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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