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説明を増やさずに卸売業の営業研修が現場に根づく3つの言い直しの場

業界別活用法26
著者: アーテリジェンス編集部
説明を増やさずに卸売業の営業研修が現場に根づく3つの言い直しの場の内容を表すビジネス研修のイメージ

最終更新日:2026年8月11日

卸売業の事業は、取引先との関係の上に成り立っています。だからこそ、営業をどう育てるかという話は、いまや人事の内側だけで完結しません。営業の育成を事業成長の説明に結びつけて経営に報告する場面は増え、新しい営業研修についても、実施したかどうかではなく、現場でどう使われたかを問われるようになりました。

新しい育成方針を全社に案内し、必要な承認も参加人数もそろった。それなのに数か月後に振り返ると、拠点によって受け止め方はばらばらで、手応えを持っているのは案内した人事だけ。参加率は目標を満たしているので、何が足りなかったのかを言葉にすることも難しい。人材開発を担う立場で、こうした後味を経験した方もいるのではないでしょうか。報告できる数字は揃っているのに、施策が動いている実感だけがない。この落差はどこから生まれているのでしょうか。それでは、新しい営業研修が現場に根づく道筋について、社内でどう意味が共有されていくのかという観点から探っていきましょう。

この記事の要点

  • 卸売業の新しい営業研修は、承認と参加人数が揃った時点で浸透したように見えるが、そこで止まりやすい。
  • 同じ案内文を全員に使い回すほど、経営と現場が施策に見いだす意味は別々のまま残る。
  • 浸透を、伝えた回数ではなく現場でその施策が自分の仕事の言葉に置き換えられた回数で捉えると、人事が次に手をつける場所が変わる。

同じ案内文を配っても営業研修が拠点に定着しないのはなぜか

案内は行き渡ったのに拠点で差が出る。この差がどこで生まれているのかを、ひとつの会社の中に降りて見ていきます。

案内文を一本にまとめると何が片づくのか

例えば、全国に営業拠点と物流拠点を持つ食品・消費財の卸売企業を思い浮かべてみます。人材開発の担当者が、注文を聞いて回る形の営業から、得意先との信頼関係を土台にした提案型の顧客接点づくりへ切り替える営業研修を新しく立ち上げたところです。

このとき担当者は、経営向けの投資意義の説明資料と、現場向けの募集案内を同じ内容で作ります。社内ポータルと一斉メールで流し、応募が集まらなければ期間を延ばすか、対象者を必須参加に切り替える。説明が一本にまとまれば伝達の抜けも問い合わせも減りますし、承認と参加人数という報告できる数字が短期間で揃います。同じ手を選ぶ会社は少なくありません。効率を考えれば、この選び方はごく自然なものです。

参加人数が揃った後の拠点で何が起きているのか

受講した翌週、決まった得意先を定期的に訪問する営業担当は、いつもの一日に戻っています。決まった得意先を回る営業の一日は、受注の取りまとめ、納品と品切れが出たときの連絡と調整、返品の処理が中心を占め、提案の話は空いた時間に回りやすい。納品の合間の数分で品切れの謝罪と発注の取りまとめに追われ、研修で聞いた提案の進め方を試す間がありません。

拠点長のほうはどうでしょうか。拠点長は週次で訪問件数と受注額を確認する立場にあり、この確認項目が現場の優先順位を実質的に決めています。受講で得たものは確認の対象に入らないまま流れていきます。人事の手元には「提案しても浸透しない」という結論だけが残ります。

ここで気になるのは、案内の届き方に原因を求めてよいのか、という点です。人事制度の浸透度は30パーセント程度にとどまるという調査結果が報告されています (*1)。この調査は業種横断のもので、卸売業に限った値ではありません。案内を出したかどうかとは別の水準で、浸透という現象が起きていることが読み取れます。

では、何が抜けているのでしょうか。施策の意味を人事が一度決めて配る形になっていて、経営・拠点長・受講者がそれぞれ自分の仕事の言葉に置き換える機会がどこにも置かれていない、というところから始まっているのかもしれません。これは担当者の人手や研修時間の不足とは別の話です。時間を増やしても、置き換えの機会が自然に生まれるわけではありません。むしろ説明を一本にまとめて精度を上げるほど、各拠点が自分たちの言葉に置き換える余地は小さくなっていきます。

浸透を伝えた回数ではなく言い直しの数で捉え直す

置き換える機会がどこにもないまま数か月が過ぎるとしたら、浸透は何で測ればよいのでしょうか。

育成施策の浸透は、案内が届いた状態のことではなく、経営・拠点長・受講者がそれぞれ自分の仕事の言葉で施策を言い直す機会が重なって、意味が揃っていく過程だと捉えてみるとどうでしょう。この見方に立つと、人事の仕事は説明を一本に統一することではなく、立場ごとに言い直す機会を用意することになります。この記事では、その機会をまとめて「言い直しの場」と呼ぶことにします。

同じ案内を受けた拠点でも、拠点長が朝礼で自分の言葉でこの研修に触れた拠点だけ、受講翌週の得意先訪問で聞き方が変わっている。そんなことがあります。この差は参加率の表には出てきませんが、言い直しの数で見ると説明がつく差だと考えられます。

なぜこの見方が効くのか。卸売業は営業・物流・商品管理が拠点ごとに分かれていて、同じ一文でも判断の前提が違います。説明を精緻にするほど、各拠点での解釈はかえって広がっていきます。案内文をもう一度作り込むか、拠点長と15分話すか。この分かれ道で、どちらを取るかを選べる形にしてくれるのが、この見方の使いどころです。

裏づけになる整理もあります。人事施策の効果は、職場の管理者や従業員が意図を受け止め直す過程を通ると整理され、近年は職場ごとの受け取り方の違いを見る必要が指摘されていると報告されています (*2)。組織で起きた出来事の意味は後から言葉にされることで形になるという、Karl E. Weickが1979年に示した組織の意味形成の考え方とも重なるところがあります。ここで借りるのは、意味は配られるのではなく語られる中で作られるという一点だけです。

経営と拠点長と受講者に言い直しの場を1つずつ用意する

語られる中で意味ができるとして、卸売業の日程と拠点の制約の中で、その場をどこに差し込めるでしょうか。ここからは、3か所の置き場所と、それぞれにかかる時間を見ていきます。

言い直しの場は、新しい会議を作らずに、すでにある稟議・週次確認・朝礼という3つの機会に短く差し込みます。人事が用意するのは説明ではありません。その場で相手に言ってもらう問いを1つだけ決めておく、それだけです。

経営と拠点長には自分の仕事の言葉で言い直してもらう

経営に対しては、稟議の前に「この研修のあと得意先との取引がどうなっていてほしいか」を1文で言ってもらいます。そして、その言葉をそのまま案内文に使います。人事が書いた一文を承認してもらうのではなく、経営が口にした一文を持ち帰る。順番が逆になるだけで、案内文の性格が変わります。

拠点長には、受講前に15分だけ時間をもらいます。そこでお願いするのは、週次で確認している訪問件数と受注額に加えて、得意先から相談された内容を1件共有するという項目を1つ足してもらうことです。確認項目が現場の優先順位を決めているのですから、そこに1行加わることの意味は小さくありません。しかもこの15分は、人事が説明する15分ではなく、拠点長がこの研修を自分の週次の言葉に置き直す15分です。何を足すかを先に言ってもらい、その言い方を人事が受け取る。この運びを守れるかどうかで、同じ15分でも施策の受け止め方は変わってきます。

受講者には担当先の場面に置き換えて話す10分を渡す

受講者には、受講直後ではなく翌週の朝礼で、自分の担当している店の場面に置き換えて1人1つ話してもらいます。研修の内容を復唱する時間ではなく、自分の得意先ではどの場面に当たるのかを口に出す時間です。翌週にずらすのは、一度いつもの一日に戻ってから話すほうが、担当先の具体が出てくるからです。

うまくいくかどうかは、人事が用意した文言を承認してもらう形にしないかどうかで分かれます。経営にも拠点長にも、こちらの案を見せる前に先に言ってもらい、その言葉を人事が持ち帰って使う。この順番だけは崩さないほうがよさそうです。

かかる時間は、拠点長1人あたり15分と、朝礼の10分。全社説明会を1回追加するより短く、繁忙期でも差し込めます。案内文の作り込みに充てていた時間を、こちらに移す形です。

拠点ごとの温度差が見え次の施策を出しやすくなる

15分と10分を1回まわしたあと、人事の手元には何が届くようになるのでしょうか。

拠点長が週次の確認に1項目足すと、受講翌週の得意先訪問で相談された内容が拠点に上がってくるようになります。営業担当が数分の立ち話で何を聞いたかが、記録として残りはじめる。すると拠点ごとの差は、施策の失敗ではなく、どの言い直しが効いたかを読み取る材料に変わっていきます。一斉告知と必須参加化では届かなかった、受講後の行動が元に戻るという点に、ここで初めて手が入る形になります。

前半で置いた2つの事情も、ここで手当てできます。繁忙期と研修日程が重なる問題は、15分と10分に分けたことで、日程を1つにまとめる必要がなくなります。拠点長が今日の数字だけで評価するために受講後の行動が戻ってしまう問題のほうは、確認項目を1つ足すという言い直しで扱えます。どちらも新しい仕組みを立てずに済むところが、続けやすさにつながります。

同じ手順は、営業だけでなく物流や商品管理を含む施策や、次年度の管理職育成にもそのまま移せるでしょう。人的資本経営の文脈で経営に報告する際も、参加率ではなく現場で何が語られたかを材料にできるという可能性が広がります。人事は、次の施策を起案しやすい立場に戻れるはずです。

言い直しの材料を何度でも試せる場としてのAIビジネストレーニング

もっとも、この効果を続けるには、言い直しの材料になる会話そのものの量が要ります。朝礼で担当先の場面を話すにも、話すだけの中身が営業担当の側になければ続きません。

これまでの手段を見ておきます。集合研修は日程と会場の調整が要るため、多拠点では受講機会に差が出やすい。業務を離れて行う研修の形をとるeラーニングは受講記録は残りますが、得意先との会話を試す場にはなりにくいところがあります。OJTに寄せる選択もありますが、指導する人材が足りないという声は多くの拠点から挙がっています。能力開発や人材育成に問題があるとした拠点や事業所は79.9パーセントにのぼり、問題点の最上位は指導する人材が不足しているの59.5パーセントだったと報告されています (*3)。この調査は企業単位ではなく拠点単位で集計されています。OJT頼みでは練習量を確保しにくい、という実情がうかがえます。

そこで一つの選択肢になるのが、株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニング、ミチビカです。AIとの対話でビジネススキルを練習する仕組みで、納品の合間の数分で要望を整理し、対応できる範囲を伝え、次の訪問日を決めるという会話を、AIロールプレイで何度でも試せます。拠点が全国に分かれ日中に現場を離れにくいという事情は、同じ期間に同じ顔ぶれで進めるグループの形をとることで扱えます。受講期間を区切って一緒に進める形をとると、集合研修に近い緊張感が保たれます。一人で進める学習より、同じ仲間と期間を区切って進める形のほうが続きやすいと、一般にされています。

受講から6か月後に受講者の上司へ行った追跡アンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83パーセントを超えていました。本人の自己申告ではなく上司による他者評価で、業種横断の全体集計です。アーテリジェンス全体では100社・3,000人以上の研修受講実績があり、卸売業のように拠点が分散する組織でも、言い直しの材料を全拠点に同じ量だけ配れる可能性があります。

運用にあたっては、グループ単位で進めるため最低10名の受講グループと静かな受講環境が必要になります。ただ、拠点をまたいでグループを編成し、内容のまとまりごとに受講期間を区切ることで、繁忙期の重なりを避けながら進められます。顧客接点づくりを扱うセールス研修の標準コースもあり、自社の営業マニュアルや得意先とのやり取りを教材に取り込むこともできるので、施策は決まったけれど現場で使われる形にできていないという状態の人事部に向いています。拠点が分散していても同じ量の練習を届けられるか、自社の営業場面を教材にした形でご相談いただけます。

明日の朝礼で試せる1つの言い直しから

練習の場を用意しても、それを現場の言葉に変えるのは、人事が置いた3か所のほうです。ここまで長く読んでくださった方の会社でも、案内文はすでに十分に整っているのではないかと思います。効いたのは、浸透を伝えた回数ではなく言い直しの数で見るという1点だけでした。手元に残るのは、経営が言った1文と、拠点長が週次の確認に足した1項目と、朝礼で話された担当先の場面の記録です。いずれも、次の施策を起案するときの説明材料になります。

はじめに登場した営業担当は、納品の合間の数分で、相手の要望を先に整理して口に出し、今できることとできないことを分けて伝え、次の訪問日をその場で決めるようになりました。拠点長は週次の確認で相談された内容を1件ずつ拾い、人材開発担当はその記録を持って次の育成施策の起案に進んでいます。

明日の朝礼で、担当先の場面を1人1つ話してもらう。そこから始めれば、浸透の数え方はその日から変えられます。ぜひこの記事でご紹介した実践手法は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。顧客接点づくりの研修設計と現場での運用について、資料のご請求と個別のご相談を承っています。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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