ミチビカAI

航空・空港の育成テーマが毎年入れ替わるのはなぜか 優先順位の決め方

業界別活用法12
著者: アーテリジェンス編集部
航空・空港の育成テーマが毎年入れ替わるのはなぜか 優先順位の決め方の内容を表すビジネス研修のイメージ

# 航空・空港の育成テーマが毎年入れ替わるのはなぜか 優先順位の決め方

最終更新日:2026年9月15日

国内線と国際線の需要が戻り、空港には再び人の流れが戻っています。便数が戻った分だけ要員の計画は張り詰め、人を育てる時間そのものが希少な資源になりました。一方で、人材育成は経営戦略と結びつけて説明することが求められるようになり、航空・空港運営の各社でも、育成の中身を企業価値の説明の一部として語る場面が増えています。人材育成を企業価値の説明に結びつける動きのなかで、育成企画を担う人事の担当者は、現場の時間が減るのと同じ速さで説明すべきことが増えていく位置に立っています。

中期経営計画が刷新される時期と、技術環境が変わる時期が重なると、安全品質、多言語対応、デジタル活用、管理職育成といった育成テーマが同時に立ち上がります。依頼はそれぞれ別の経路で人事部に届き、どれも必要だと分かるだけに、後回しにする理由も見つかりません。今年どれを先に置くかを決める根拠が手元にないまま、テーマは年間計画に積み上がっていきます。去年の計画と今年の計画を並べたとき、何を残して何を落としたのかを言葉にできるでしょうか。

それでは、育成テーマの優先順位をどう決めるかについて、変えるものと変えないものを分けるという観点から掘り下げていきましょう。

この記事の要点

  • 航空・空港運営の人事部が抱える育成テーマは年ごとに増えるが、増やした分だけ一つひとつが薄くなり、顧客との信頼を築く力のように時間のかかるものほど後回しになる。
  • 新しいテーマを足す判断が速いことと、育成の方針が信頼されることは別の話であり、現場が見ているのは後者だ。
  • 優先順位を施策の並べ替えとしてではなく、変えるものと変えないものを時間軸の中で分ける考え方として扱い、その分け方を現場の行動の水準まで下ろす。

依頼を受けた順に研修を足していく年間計画

積み上がっていく年間計画は、どこで無理が出るのでしょうか。例えば、国内線と国際線の需要が戻った航空・空港運営の会社では、こんな朝が繰り返されています。空港の旅客部門では、搭乗手続きから搭乗口での案内までを担い、遅延や欠航が出たときには代替便の案内や苦情の受け止めを最前線で行う地上係員が、窓口に立っています。遅延や欠航が起きたときの対応、いわゆるイレギュラー対応の場面では、振替案内で語気を強める旅客に向き合いながら、後ろに並ぶ列の長さも気にすることになります。

その最前線に立つのは、多くの場合、毎月入ってくる新人の指導も兼ねている中堅の係員です。単純な事務作業が自動化された分、新人は業務に習熟する前から苦情や振替の場面に入ります。中堅は自分の対応を進めながら、隣の新人の様子にも目を配ります。

経営の言葉に速く応える人事部

同じ頃、人事部の育成企画担当のもとには、経営層の発言や中期計画の刷新を受けた依頼が次々に届いています。担当者は、届いた依頼を届いた順に年間計画へ足していきます。その場では経営の関心に応えた形が作れますし、予算の説明も通りやすくなります。担当者としては、最も自然な選択です。

この足し算が起きるのは、育成の課題が見えていないからではありません。能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所は8割を超えるという結果が出ています(*1)。尋ねた相手は事業所と企業で、特定の業種に限った調査ではありません。

同じ調査では、教育訓練に費用を支出した企業は5割台にとどまると報告されています。課題の認識は広く共有されている一方で、そこに向かう投資は限られます。この落差は、テーマを足しながら一つひとつが薄くなっていく状態と重なります。

薄くなった研修は、シフト勤務の合間を縫って受講枠に落とし込まれます。イレギュラー対応に立つ中堅の地上係員は、新人指導と現場運用を抱えたまま、新しい受講対象に加わります。年間計画の上では受講率が埋まり、依頼元への報告も成り立ちます。

ただ、旅客が語気を強める場面で何をどう伝えるかという、時間をかけて身につける対応の型のほうは、毎年テーマが入れ替わるなかで誰の担当でもないまま残り続けます。安全品質の年にも、多言語対応の年にも、その型は計画のなかに居場所を持ちません。現場から見れば、毎年新しい題目が降りてきて、去年の題目は静かに消えていきます。

優先順位の基準が言葉になっていない

では、足りていないのは何でしょうか。予算や人手が増えれば解決するかというと、そうとも言い切れません。なぜ今年このテーマを先に置いたのかを説明する基準が、人事部のなかでも言葉になっていないところから始まっているのかもしれません。基準が言葉になっていないと、去年との違いが語れません。

語れないまま新しい研修が始まると、現場管理職の目には毎年の入れ替えが「また方針が変わった」と映ります。接遇の講座が案内されたときに「またコミュニケーション研修が増えた」と受け取られるのも、中身が悪いからではなく、去年のテーマとのつながりが見えないからではないでしょうか。そうなると、どのテーマにも本気の時間は割かれにくくなります。

育成テーマを変えない芯と入れ替える外側で持つ

去年との違いを語る言葉がないまま次の年が始まるなら、年間計画を一枚の表として眺めるのを、いったんやめてみるとどうでしょう。育成テーマを2つの層で持つ、という捉え方があります。環境が変わっても持ち続けると決めた行動の水準を内側に置き、その年の経営課題に応じて入れ替わる施策を外側に配置します。この記事では、前者を変えない芯、後者を入れ替える外側と呼ぶことにします。

芯に置くのは、職種名や制度の名前ではありません。旅客と向き合う場面で取る行動の水準です。外側には、AI活用や多言語対応のように、そのときの環境から求められるテーマを並べます。優先順位は施策の順番を決めるものではなく、組織が何を変えずに持ち続けようとしているかを示すものだと考えてみると、計画の読み方が変わってきます。

ソフトスキルのように育つまでに時間がかかるものを外側に置くと、毎年の入れ替えに巻き込まれます。相手の話を受け止めてから提案に入るといった力は、1年で身につくものでもありません。芯の側に置けるかどうかが分かれ目になります。

この2層で見直すと、毎年の研修一覧は、増えた減ったの記録ではなく、組織が何を守り続けてきたかの記録として読めます。振替案内で語気を強める旅客に向き合う場面で地上係員が取る対応の型が、どの年の計画にも芯として入っていなかったことが、一覧を見ただけで分かるようになります。

この分け方が使えるのは、シフト勤務と需要の変動のなかで毎年の施策が動かざるを得ない航空・空港運営だからです。施策が動くことを前提に置いたうえで、動かさない部分を先に決めておきます。そうすると、経営方針が変わったときにも、人事部は守るものを先に言えます。他の整理の仕方が悪いわけではなく、変化が前提の職場でこそ、この分け方が働きます。

なお、学んだことが職場で使われる割合は時間とともに下がり、研修の前後に職場側の支えがあるかどうかが効くと、一般にされています(*3)。芯を決めて同じ行動を繰り返し支えるという持ち方は、この指摘と重なります。

芯を現場の行動の水準まで書き下ろす

2層で持つという見方は、どこから手をつければ形になるのでしょうか。手がかりは会議室ではなく、現場の側にあります。

芯をテーマ名ではなく場面の行動で書く

芯は「顧客対応力の強化」のようなテーマ名では書きません。その場面で誰が何をどの水準で行うか、という行動として書き下ろします。材料は現場にあるので、イレギュラー対応のあった当日に何が起きたかを、対応にあたった地上係員と、その場を見ていた管理職の双方から聞き取ります。うまくいった対応と詰まった対応を、同じ様式で書き取っていきます。

この聞き取りは、全便を対象にする必要はありません。遅延が出た日を数回分拾えば、判断が割れる場面が繰り返し現れます。誰もが同じところで迷っていた、という手応えが先に見えてくるところです。

たとえば振替案内の場面なら、「代替便の提示より先に、旅客が今いちばん困っていることを一度言葉にして返す」といった水準で書きます。ここまで下ろすと、芯はテーマ名ではなく、現場で再現できる行動の言葉になります。

地上係員の教育について、システム操作を中心とした技術面の訓練から対人対応の側へ重点を移し、双方向の対話を含む形に組み替えた取り組みも報じられています(*2)。そこからは、顧客接点の力を後から足す項目ではなく、訓練の柱として置き直した構造が読み取れます。

外側の施策を芯との関係で説明する

芯が1行で書けていると、その年に追加される施策の置き場所も決めやすくなります。多言語対応やデジタル活用の施策について、この行動をどう支えるものなのかを1行で説明してみます。説明できる施策は外側の前のほうに、説明できない施策は外側のなかでも後ろに置けます。自社の来年の計画に並ぶ施策を、この1行と突き合わせてみてください。

従来のスキルマップづくりと違うのは、職種ごとの能力を網羅しようとしない点です。判断が割れる場面だけを拾うので、数回の聞き取りと書き取りで最初の一枚ができます。網羅の作業にかけていた時間は減り、その代わりに、どの場面を拾うかを選ぶ目が要るようになります。

来年の方針が変わっても守るものを先に言える

行動の水準まで書き下ろした一枚が手元にあると、次の年の景色が変わります。経営方針が刷新されて新しいテーマが降りてきても、人事部は年間計画を組み直す前に、これは外側で入れ替えるものだと整理できるでしょう。去年との違いも、現場管理職に説明できるようになります。

依頼を受けた順に足していく対応では、「なぜ今年これなのか」という問いに答える材料がありませんでした。芯が言葉になっていれば、その問いに初めて答えが返せます。毎年変わるテーマの下に変わらない一本があると分かれば、現場の「また方針が変わった」という受け取り方も薄れていくという可能性が広がります。

芯が言葉になっていれば、新人の受け入れの場でも、管理職が部下を指導する場でも、同じ言葉が使えます。育成の話が部門をまたいでつながりやすくなるという視点が開けるでしょう。そこまで来れば、その行動が実際に現場で出ているかを見る段階へ進めます。

単純な事務作業が自動化された分、新人が習熟する前から苦情や振替の場面に入るという事情も、ここで受け止め直せます。芯を行動の水準で書いておけば、それは新人にも最初に渡せる言葉になります。中堅の地上係員が現場運用と新人指導を同時に抱える負担も、何を伝えるべきかが決まっていれば、伝える内容を毎回組み立て直す手間の分だけ軽くなるかもしれません。

シフト勤務の現場で芯を繰り返し練習する手段

芯として決めた行動は、一度伝えただけでは現場で出ません。繰り返し練習して、ようやく旅客の前で口をついて出るようになります。その練習を、運航に連動したシフト勤務の職場でどう回すかが、次の課題になります。

職場を離れて行う研修のうち、集合研修は議論や合意形成に向いています。ただ、同じ日に全員を集めると当日の受入体制が崩れるため、受講機会に差が出ます。eラーニングは時間の制約を受けませんが、進み方は一方向です。旅客が語気を強める場面での言い方を練習する用途には向きにくいところがあります。どちらにも向く場面があり、同時に届きにくい場面もあります。

書き下ろした振替案内の場面を、そのまま練習の題材にできる形式もあります。AIとの対話で人のソフトスキルを鍛えるやり方です。株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニング、ミチビカは、ケースストーリーを読んで登場人物の状況を理解したうえで、AIを相手にロールプレイを行い、良い点と改善点の振り返りを受ける流れで進みます。

旅客が強い口調で迫る場面は、人を相手にした練習では再現しにくいものです。研修室のなかで無理に演じても、実際の温度にはなりにくい。中堅の地上係員に新人の相手役を務める余力があるとも限りません。相手を気にせず何度でも繰り返せることが、この現場では実務上の条件になります。

受講半年後に受講者の上司へ行ったアンケートでは、行動が変わったとの回答が83%を超えていました。当社が集計したもので、受講者本人の自己申告ではなく上司による他者評価であり、業種はメーカーやSIer(システム開発会社)、不動産などを含む全体の集計です。芯として決めた行動が現場で出ているかを、受講後の満足度ではなく上司の目から見た変化として確認する運用は、航空・空港運営の顧客接点づくりにも当てはめられる可能性があります。

話し方を見るアセスメントは音声を扱うため、静かな受講環境が要ります。一方で、同じ期間に一緒に受講するグループの単位で期間を区切って進める設計です。期間を区切って同じメンバーで進める受講の形なので、シフトの合間に各自のタイミングで受講でき、既存の社内マニュアルを取り込んだカスタマイズにも対応できます。顧客接点の行動を芯に据えたい場合は、標準モジュールのあるセールス研修のカスタマイズから相談すると進めやすく、まずは自社の育成テーマを2層に仕分けるところから議論したい人事部にも向きます。芯をどう書き下ろし、その行動をどう確かめるかは、自社の年間計画を前に置いて初めて具体になります。自社の育成テーマを変えない芯と入れ替える外側に仕分けるところから、ご一緒に整理できます。顧客接点づくりの研修設計と、受講後の行動をどう確認するかについて、資料のご請求と個別のご相談を承っています。

来年の依頼が届く前に決めておくこと

繰り返しの練習が支えているのは、その年のテーマではなく芯のほうです。年ごとに増える依頼をさばきながら、それでも現場に残るものを探し続けるのは、簡単な仕事ではありません。この記事で効いたのは、優先順位を施策の順番ではなく、変えないものと入れ替えるものの線引きとして見る一点でした。手元に残るのは、育成テーマを2つの層に仕分けた一枚と、イレギュラー対応の場面から書き取った行動の言葉です。この2つがあれば、次の依頼が届いたときに、芯に足すのか外側に置くのかをその場で判断できます。

育成企画担当は、翌年の計画を組む前に、遅延が出た日の旅客対応を数回分聞き取りました。そこから、代替便を出す前に旅客の困りごとを一度言葉にして返す、という1行を芯として書きました。新しく降りてきたデジタル活用のテーマは外側に置き、その1行をどう支えるかを添えて管理職に説明しました。中堅の地上係員は、新人に伝える内容を毎回考え直さずに済むようになり、自分の対応も同じ言葉で振り返るようになりました。

来年の依頼が届く前に、直近のイレギュラー対応を1件だけ書き取ってみてください。守りたい1行は、もう現場のなかにあるはずです。ぜひこの記事でご紹介した実践の手法は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

他の記事

小売業の人材育成を満足度の比較から予算判断の材料へ組み直すの内容を表すビジネス研修のイメージ

業界別活用法

小売業の人材育成を満足度の比較から予算判断の材料へ組み直す

オンライン販売が主力になった小売業では、受講率と満足度の一覧を前に、どの研修を残すか決めかねる場面が増えています。人材育成の効果を確かめたいことの設計から組み直し、予算判断に使える材料へ変えるための進め方を、企画と会議の場面からまとめました。

…続きを見る →
13
金融業の営業現場でコミュニケーション能力が根づいたかはどこに表れるかの内容を表すビジネス研修のイメージ

業界別活用法

金融業の営業現場でコミュニケーション能力が根づいたかはどこに表れるか

営業研修を実施しても、受講後に現場で何が変わったのかを説明できず、次の年度計画を組み替える根拠を持てない。生命保険会社の人材開発担当者に向けて、コミュニケーション能力が根づいたかを支社での報告の言葉から捉える見方と、その集め方を整理します。

…続きを見る →
12
プラント工事の技術営業で顧客の信頼が積み上がる過程を人事がどう捉えるかの内容を表すビジネス研修のイメージ

業界別活用法

プラント工事の技術営業で顧客の信頼が積み上がる過程を人事がどう捉えるか

設備工事やプラント建設の技術営業に向けた営業研修は、受注が決まるまで年単位かかり、手元に残るのは満足度と受講率だけになりがちです。案件の局面ごとに確かめる情報へ組み直し、人材育成の判断材料を手元に残す道筋を紹介します。

…続きを見る →
12

もっと詳しく知りたい方へ

資料DLお問い合わせ