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電力・ガスの研修体系が増え続ける理由と維持と更新を分ける考え方

業界別活用法約12分
著者: アーテリジェンス編集部
電力・ガスの研修体系が増え続ける理由と維持と更新を分ける考え方の内容を表すビジネス研修のイメージ

# 電力・ガスの研修体系が増え続ける理由と維持と更新を分ける考え方

最終更新日:2026年9月26日

電力・ガスの職場では、1年のうちに実施される研修の本数が他の業種と比べて多くなりがちです。安定供給と、電力・ガスの設備を安全に保ち事故を防ぐための業務全般を指す保安を前提に事業が成り立っているため、法令や安全に関わる教育を毎年続けること自体が、事業を続けるための条件になっているからです。人材育成の議論が「実施するかどうか」ではなく「積み上がったものをどう扱うか」から始まる点で、他の業種とは出発点が違います。

近年は技能継承や脱炭素、デジタル活用といった新しいテーマが次々に加わり、従来からの定例教育と同じ年度計画の上に並ぶようになりました。項目は毎年増えるのに、減る項目はほとんどありません。年度計画を組む立場にある人ほど、一覧の全体像がつかみにくくなっているのではないでしょうか。研修が足りないのではなく、多いところから考え始める。この出発点に心当たりのある人材育成の担当者に向けて、それでは、研修体系の維持と更新をどう分けるのかについて、社会インフラ業ならではの事情の側から探っていきましょう。

この記事の要点

  • 社会インフラ業の人材育成では、研修の不足よりも、性質の異なる施策が一つの一覧に同居することによる判断の難しさが問題になりやすい。
  • 前年踏襲や部門要望への個別対応は今年度の実施を守る一方で、体系の輪郭を年々ぼやけさせていく。
  • この記事では、研修体系を守り続けるものと変えようとするものの配分として読み直す見方を示し、その見方を年度計画の作業に落とす手順まで扱う。

増え続ける研修一覧を前に何が起きているか

項目が増え続ける一覧は、どの時期にいちばん重くのしかかるでしょうか。多くの場合、それは次年度計画の策定期です。ここでは、その場面で何が選ばれ、その選択が現場に何を残すのかを順に見ていきます。

次年度計画の策定期に判断が止まる場面

例として、電力・ガスを供給する社会インフラ企業の人材育成センターを思い浮かべてください。研修企画を担当する人が、次年度計画の策定期に自社社員と協力会社を含む研修一覧を広げています。電力・ガスの現場では、設備の保守や点検を自社社員だけでなく協力会社の技能者が担う範囲が広く、人事が組む研修の対象はグループ外の働き手にも及びます。この対象の広さが、同じ研修を一律に届けるか対象を絞るかという判断の重さにつながります。しかも受講履歴は複数の仕組みに分かれて記録されており、重複も対象の偏りも一覧の上では見えません。

判断の手がかりがないまま期日は迫ります。そこで研修企画担当は、前年の一覧をそのまま引き継ぎ、そこに各部門から上がってきた要望を個別の研修として足していきます。この進め方なら今年度の実施が滞らず、関係部門との調整でも角が立ちません。だからこそ、毎年自然に選ばれていきます。

しわ寄せは現場に出ます。送配電の保守を担う中堅技能者は、定期修繕の合間を縫って同種の安全教育を受け、「これ前もやったような」と感じます。その一方で、ベテランが抜けた後に自分が判断を任される場面については、練習する機会が用意されないままになっています。

減らせない理由は時間ではなく物差しにある

では、なぜこの状態が毎年繰り返されるのでしょうか。保安や法令の教育のように長く守り続けることに意味がある施策と、技能継承や脱炭素対応のように内容の更新そのものが目的である施策が、「今年も実施するか」という一つの物差しで並べて比べられています。性質の違うものを同じ軸に載せれば、どちらも同じ重さで残り続けます。判断を止めているのは人手や時間の不足ではなく、比べる軸が1本しかないことなのかもしれません。

この構図は、業界全体の数字にも表れています。電気・ガス・熱供給・水道業で職場を離れて行う研修を実施した企業の割合は88.2%、技能継承の取組を実施している企業の割合は83.8%と報告されています (*1)。この調査は企業を対象に業種別の集計を示したもので、実施の有無を尋ねたものです。実施量の多さは、すでに前提になっているわけです。

いっぽうで、同じ調査では、社内の人材育成計画を定めた文書を作成している企業は1,000人以上の規模でも45.4%にとどまると報告されています。実施は進んでいるのに、何を残し何を変えるかを定める仕組みのほうは追いついていない。物差しが1本しかない状態は、この会社だけの事情ではなさそうです。

研修体系を守るものと変えるものの配分として読む

物差しを増やす前に、できることがあります。比べる前に分けてみる、という順番です。

維持と更新の二層読みと呼ぶことにします。これは、研修体系を講座の一覧としてではなく、会社が守り続けようとしているものと、会社が変えようとしているものの配分を映す構造として眺める見方です。社会インフラ業では安定供給と保安という守るべき軸がはっきりしているので、どの施策がその軸を守るために反復されているのか、どの施策が事業環境の変化に合わせて内容を入れ替えるために置かれているのかを、体系全体の考え方として読み取れます。この2つは求められる時間軸がそもそも違います。守る側は同じ内容を長く続けることに価値があり、変える側は同じ内容を続けること自体が目的から外れていきます。一覧のどこに何がどれだけ置かれているかを見れば、自社が今どちらに重心を置いているかが浮かび上がってくる、と考えてみるとどうでしょう。

この見方に立つと、同じ「毎年実施」と書かれた行が、2つに分かれて見えてきます。保安の手順を体に定着させるための反復と、数年前の事業環境に合わせて作られたまま更新されずに残った反復です。前者は続けること自体が成果ですが、後者は続けているという事実が判断を先送りしている状態と読めます。2章で見た中堅技能者の「これ前もやったような」という感覚は、後者の行に当たっているのかもしれません。

研修体系の整理を扱う一般的な議論は、重複の削減や棚卸しの手順に向かいます。ただ社会インフラ業では、保安に関わる施策を軽々に畳むわけにはいきません。削減を前提にした整理は、現場の納得を得にくいところがあります。二層読みは減らすことを求めず、それぞれの層に合った扱い方を決める形をとります。守るべきものを守ったまま判断を進められる、という点に使いどころがあります。

この見方と重なる枠組みもあります。BaldwinとFordが1988年に提示した研修転移の枠組みでは、学んだことが職場で使われるかどうかは、教える内容だけでなく職場の環境や実践の機会にも左右されるとされます。変える側の施策ほど、内容の更新と同時に職場で使う場面まで併せて設計する必要がある。その点で、二層読みと重なります。では、分けて見えたものを、実際の一覧にどう当てていけばよいのでしょうか。

年度計画の一覧に二層の目印を付けて回す

分けて見えた景色を、年度計画の作業に持ち込みます。ここからは、一覧の各行に手を入れる手順を、仕分けと周期の2つに分けて見ていきます。

一覧の各行を守る側と変える側に仕分ける

まず、年度計画の一覧の各行に、守る側か変える側かの目印を1つだけ付けます。2つ付けない、というところが要点です。迷う行が出てきたら、その施策を3年後もまったく同じ内容で実施していてよいか、という問いを当ててみてください。たいていは片方に寄ります。

送配電の保守を担う技能者に向けた安全教育を例にとると、手順の反復は守る側として内容を固定し、受講の確実さだけを確かめる形にします。定期修繕の合間に同じ内容を受けていたあの時間は、ここで扱いが決まります。一方、ベテランが抜けた後に自分で判断を下す場面への備えは変える側として扱い、実際に判断を言葉にして人に伝える機会を持てるところまで設計します。

重なりが見つかった行は、統合を急がないほうが進みます。それぞれがどちらの層で何を担っているかを一文で言い直してみると、残すか畳むかの判断が自然に定まってきます。削るかどうかを先に決めようとすると、保安に関わる行のところで手が止まりやすいからです。

層ごとに更新の周期と確かめ方を変える

目印を付けたら、層ごとに扱い方を分けます。守る側は内容を固定したうえで、対象者に漏れなく届いているかを確かめます。確かめるのは実施の確実さであって、内容の新しさではありません。毎年同じ内容が同じ対象に届いていれば、それでよいわけです。

変える側は、1年から2年の周期で内容そのものを見直す対象として扱います。ここで確かめたいのは、届いたかどうかよりも、内容が今の事業環境に合っているかどうかです。研修転移の研究では、上司や同僚の支援、実践の機会、受講後の振り返りが職場での活用を左右するとされており (*2)、変える側の施策では内容の更新だけでなく、現場で使う場面を併せて用意する必要があると考えられます。

この仕分けは、一度で終える作業ではありません。層ごとの周期に乗せて毎年回すところまで含めて決めておきます。守る側は到達の確認を年次で、変える側は内容の見直しを1年から2年で。この2つの周期を最初に決めておくと、翌年の策定期に一覧を広げたときの出発点が変わります。では、この手順を1年回した先には、何が期待できるのでしょうか。

説明できる体系がもたらすもの

仕分けと周期の設定を1年回したあとの一覧には、各行に層の目印が付いています。このとき、研修企画担当は各施策の位置づけを経営にも現場にも一文で説明できるようになります。なぜこの研修が毎年あるのかと問われたときに、守る側だから内容を変えずに続けている、と答えられる。成果を問われたときに体系ごと作り替える、という対処を選ばずに済む可能性が開けます。

現場の技能者の側にも変化が出ます。同じ内容を繰り返し受けていた時間が減り、その分をベテラン退職後に判断を任される場面の備えに充てられます。前年踏襲や個別追加では、この2つは同時に満たせませんでした。実施を守れば重複が残り、重複を削れば保安の反復まで揺らぐ。層を分けたことで、そのどちらかを選ぶ形から抜けられます。

層ごとの周期が回り始めると、次の段階も見えてきます。変える側の施策について、受講後に現場で使われたかを確かめる段階です。守る側の実施状況と変える側の活用状況を分けて見ることで、研修効果測定の議論が満足度の比較から抜け出しやすくなる、という可能性が広がります。

協力会社を含む広い対象に同じ研修を一律に届けようとして負担が膨らんでいた点も、ここで扱えるようになります。守る側だけを共通の必須として揃え、変える側は対象を絞る。この形にすると、対象の広さが判断を重くしていた状態がほぐれます。受講履歴が複数の仕組みに分散していた点も同じで、層ごとに確かめたいことが違うと分かれば、すべてを一つに統合しなくても必要な把握はできそうです。ただ、変える側の施策そのものを、どんな手段で支えるかはまだ手つかずのままです。

変える側の施策を支える手段としてのAIトレーニング

判断を言葉にして人に伝える機会を、どうやって用意するか。守る側の反復は、手順や法令の確認が中心になるためeラーニングで届けやすく、実習を伴うものは集合研修が適します。ところが変える側で必要になるこの機会は、集合研修では日程と会場の制約から回数が限られます。eラーニングは一方向のため、練習の場にはなりにくいところがあります。

AIとの対話で実務の判断を練習するAIビジネストレーニング、ミチビカは、この層を引き受けます。ベテラン退職後に技能者が自分で判断を下す場面をケースとして読み、その判断を自分の言葉で説明し、助言を受けるところまでを一人で繰り返せます。24時間交替や定期修繕のピークで長時間の集合離脱が難しい職場でも、受講の時間帯を各自が選べます。変える側の施策を、現場の稼働に合わせて回しやすくなるわけです。期間を区切ったグループ単位で進めるため、各自の都合に任せきりにならない緊張感も保てます。

当社の実績では、履修完了率は平均90%超でした。当社調べによるもので、今回の業種・テーマに限らない全体の集計です。また、受講半年後に受講者の上司へ行った追跡アンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%を超えていました。こちらも全体の集計になります。変える側の施策で求められる「現場で使われたか」を上司の目線で確かめる形が取れるため、研修効果測定の材料として組み込める可能性があります。

運用の面では、音声で受け答えするため静かな受講環境が要ります。そのうえで、既存の社内研修資料や作業マニュアルを取り込んでケースを組み立てるカスタマイズに対応しており、拠点ごとの実情に合わせた設計ができます。守る側として全社に届ける必須教育を一定の枠で押さえたい人事部には、コンプライアンス研修の定額プランという選び方もあります。変える側の設計から考えたい場合は、年度計画の一覧を前に、どの施策を守り、どの施策を変えるかで判断が止まっているようでしたら、体系の整理とケース設計のご相談を承っています。資料のご請求もあわせてご利用ください。

明日の一覧に目印を1つ付けるところから

手段の話から、手元の一覧に戻ります。この記事で効いた見方は1つに絞れます。研修体系を、守り続けるものと変えようとするものの配分として読む。それだけです。読み終えた手元に残るのは、各行に守る側か変える側かの目印が付いた年度計画の一覧と、層ごとに更新の周期を分けるという判断の物差しです。どちらも、既存の一覧の上に書き足すだけで作れます。新しい仕組みを入れる必要はありません。

冒頭の人材育成センターに戻ってみます。研修企画担当は次年度計画の一覧を印刷し、各行の横に守る側と変える側の目印を付け直しました。保安の手順教育は内容を固定して対象への到達だけを確かめる扱いに変え、技能継承に関わる施策は1年ごとに内容を見直す対象として周期を設定しています。送配電の保守を担う技能者のほうは、同じ安全教育を繰り返す時間が減り、判断を任される場面を想定して自分の言葉で説明する練習の回数が増えています。

毎年増える一覧を前に判断を続けてこられたこと自体が、簡単なことではありません。そのうえで、一覧のすべてを仕分ける必要はないのです。まず迷いの大きい1行に目印を付けるところから、体系は説明できるものに変わり始めます。ぜひこの記事でご紹介した実践手法などは、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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