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卸売業の人材育成で研修体系を守るものと変えるものに分けて組み直す

業界別活用法13
著者: アーテリジェンス編集部
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# 卸売業の人材育成で研修体系を守るものと変えるものに分けて組み直す

最終更新日:2026年9月2日

人材への投資を社外に説明する動きが広がり、卸売業の人事部にも、人材育成を実施したかどうかではなく、組織に何が残るかで説明することが求められるようになりました。ルールを守るための教育と、一人ひとりが尊重され安心して働ける職場をつくる取り組みは、いまや同じ年度の計画表に並んでいます。研修計画の立案と運営を担う立場からすると、この2つを同じ表の上でどう扱うかは、毎年めぐってくる悩みどころではないでしょうか。

卸売業の人事部では、毎年必須の教育と現場から上がる新しい要望が同じ計画に載り、社員研修の一覧が年々長くなっていきます。長くなった分だけ、何を残し何を終えるかの判断は先送りになり、そのまま次の年度が始まる。一覧を見返す時間がないわけではなく、判断のよりどころが見つからないまま年度が動いていく感覚に、心当たりのある方も多いはずです。それでは、研修体系をどう読み直せば判断ができるようになるのか、卸売業の現場の場面から探っていきましょう。

この記事の要点

  • 毎年更新している研修計画でも、施策どうしの重なりと投資の抜けは表からは見えない。
  • 原因は忙しさではなく、施策を1件ずつ続けるか終えるかで判断していることにある。
  • 研修体系を、毎年そろえ直すものと数年かけて変えるものが重なったものとして読み直すと、判断のよりどころが変わる。

毎年更新される研修計画と現場の実感のずれ

一覧が長くなっていく状態は、具体的にはどんな机の上で起きているのでしょうか。例えば、専門商社を営む卸売業の企業で、人材開発課の課長が年度の研修計画見直し期を迎えているとします。全国に営業拠点が散らばり、営業担当は出張が多く、集合研修の日程は簡単には取れません。法令対応で毎年必須のハラスメント防止とコンプライアンスのeラーニングは、当然ながら維持しなければなりません。

そこへ拠点のマネジャーから声が届きます。「若手が取引先とのトラブルを早く上げてこない」「厳しく言うのが怖い」。専門商社の営業担当は、メーカー側の納期や価格の回答と、顧客側の要求の間に立つ位置にあり、日々の優先順位は納期調整とトラブル対応に置かれやすくなります。この立ち位置が、報告や相談の遅れという形で現れます。入社3年目の営業担当は、メーカーの納期回答と顧客の要求の板挟みになり、状況が固まる前の段階で分かっている範囲だけを上司に伝える最初の連絡、つまり第一報が遅れてしまう。

なぜ前年と同じ社員研修を続けてしまうのか

こうした声を受けた人事が取る手は、たいてい決まっています。前年の研修一覧をそのまま引き継ぎ、各部門から要望が来た分だけ新しい研修を足していく。この進め方なら年度内の計画は埋まり、経営にも実施予定として説明でき、拠点の要望に応えた形も残ります。その場では最も収まりがよい選び方で、同じ手を選んでいる会社は珍しくありません。

ただ、足された研修は結局同じ対象者に重なります。社員の目には「これは前もやった」と映る社員研修が繰り返され、受講する側の熱は少しずつ下がっていきます。取引先とのトラブルを上げにくいという拠点の声は、既存のコンプライアンス教育で扱っている扱いになり、板挟みの中にいる3年目の営業担当の第一報は遅れたままになる。計画表の上では応えたことになっているのに、現場の場面は動いていません。

体系のどこで判断が止まっているのか

そもそも、一覧を更新する以前の段階でつまずいている会社も少なくありません。厚生労働省の能力開発基本調査では、社内の人材育成計画をいずれの事業所でも作成していない企業が、卸売業・小売業で86.3%にのぼるという結果が出ています (*1)。社内の人材育成計画とは、会社として何をどの順で育てるかを定めた計画で、作成の有無が公的な調査でも把握されています。体系として整理されていない状態は、この業種では例外的な話ではないと読み取れます。

拠点から届く声のほうも、個別の相談で終わる話ではありません。職場のハラスメントに関する実態調査では、過去3年間にパワーハラスメントの相談が寄せられた企業が多数にのぼると報告されています (*3)。この調査は特定の業種に限ったものではありません。マネジャーが口にした一言は、その拠点だけの事情として片づけにくいものだと考えられます。

では、これだけ声が上がっているのに、なぜ判断は止まったままなのでしょうか。原因は人手や時間の不足ではないのかもしれません。施策を1件ずつ続けるか終えるかで判断しているため、毎年そろえ直す性質の教育と、数年かけて職場の関係を変える取り組みが、同じ年度の物差しで並べて評価されている。その施策が体系全体の中でどの役割を担い、どれくらいの期間で結果を見るものなのかが決まっていない。判断を止めているのは、この一点から始まっているのかもしれません。

守るための研修と変えるための研修という2つの時間軸

役割と期間が決まっていないなら、そこを先に決めてしまえばよい。その決め方として、2つの時間軸という見方を置いてみるとどうでしょうか。ここでは、研修体系を個々の研修の一覧としてではなく、会社が毎年そろえ直そうとしているものと、数年かけて変えようとしているものが重なった見取り図として眺める見方を、2つの時間軸と呼ぶことにします。

守る側は、法令や社内規範の理解を全員の下限としてそろえ直す取り組みです。毎年同じ水準に戻すことに意味があり、去年と同じ内容であること自体は弱点になりません。変える側は、報告や相談のしやすさのように、職場の関係が動いて初めて結果が出る取り組みです。年度をまたいで同じ対象者と続けることに意味があり、1年で切って評価する形にはなじみません。研修体系は施策の目録ではなく、会社が何を守ろうとし何を変えようとしているかが映ったものだと考えると、続けるか終えるかという問いの前に、その施策がどちらの時間軸に属するかを決められるようになります。

この見方を先ほどの計画表に当ててみます。毎年のハラスメント防止eラーニングと、拠点のマネジャーが求めている対話の取り組みは、同じハラスメントの括りに見えます。けれども片方は下限をそろえ直すもの、もう片方は関係を動かすものであり、結果が出る速さも見るべきものも違います。同じ年度末に同じ物差しで並べて成否を判断していたことが、ここで見えてきます。

年度末の一時点だけで測ることの危うさは、学んだことが職場で使われることを追った研究からもうかがえます。研修で学んだ内容を職場で使っている割合は、研修直後の62%から6か月後には44%、1年後には34%へ下がったという結果が報告されています (*2)。時間の経過とともに落ちることを前提に設計されていない施策を、年度末の一点だけで見て残すか終えるかを決める。そこには無理があると読み取れます。

専門商社では、この無理がとりわけ表に出やすいと言えます。取引先と商材の知識が人に付きやすく、育成が先輩に付いて学ぶ現場での育成に寄るため、関係を動かす取り組みほど年度をまたいで残しにくく、毎年ゼロから作り直されやすい。来年も続けるかを決める場面で、下限をそろえ直すものは内容だけを更新し、関係を動かすものは同じ顔ぶれで継続すると先に決めておける。そこがこの見方の使いどころになります。

研修体系の見直しは研修名ではなく現場の場面から進める

では、この2つの時間軸を実際の一覧の上でどう使うか。手元にある研修名の並びに、そのまま守る・変えるの札を貼っていく形ではうまくいきません。研修名は施策の側の言葉なので、同じ場面に複数がぶら下がっていても、名前を見ているだけでは重なりが浮かんでこないからです。

研修名の一覧を現場の場面の一覧に書き換える

最初にやることは、研修名で並んだ一覧を、現場で起きる場面の一覧に書き換えることです。同じ場面に複数の施策がぶら下がっていれば、それが重なりです。場面だけあって何もぶら下がっていなければ、そこが投資の抜けになります。研修管理の対象を名前から場面へ移すだけで、表からは見えなかった2つが同時に姿を現します。

専門商社であれば、取引先からクレームを受けた若手が上司に第一報を入れる場面、メーカーの回答を待つ間に顧客へ中間報告する場面、後輩の資料の誤りを指摘する場面といった単位で書き出します。この粒度まで降ろすと、拠点のマネジャーも自分の言葉で読めるようになります。研修名の一覧では自分の職場と結びつかなかった人が、場面の一覧なら「うちではここが一番多い」と言えるわけです。

拠点のマネジャーと30分で時間軸を決める

次に、場面ごとにどちらの時間軸に属するかを決めます。ここを人事だけで決めず、拠点のマネジャーと短く確認して合意しておくと、翌年の判断が個人の記憶に頼らずに済みます。時間軸の確認は拠点会議の30分を借りれば足り、出張の多い営業を新たに集める必要はありません。集合研修の日程を1本増やすのと、既にある会議の30分を借りるのとでは、動かせる速さが違います。

決めたあとの運び方も、時間軸で分けます。変える側と決めた場面だけ、同じ顔ぶれで半年ごとに振り返る場を置く。守る側と決めた場面は内容の更新だけを毎年行い、年度末の成否を問わない形にする。振り返りの場を持つ対象が絞られる分、翌年の判断で迷う項目も減り、研修管理の手間はむしろ減っていきます。

体系が整理されると現場の第一報が早くなる

場面の一覧と時間軸の合意が手元にそろうと、翌年度の計画づくりから何が変わってくるでしょうか。まず、似た内容が同じ対象者に重なることが減り、社員が「これは前もやった」と感じる場面が少なくなります。その一方で、これまで何もぶら下がっていなかった場面に手を打てるようになります。減らすことと足すことが、同じ一覧の上で同時に決まるわけです。

板挟みになった3年目の営業担当が上司へ第一報を入れる場面は、変える側の時間軸として半年単位で扱われます。前年の一覧を引き継ぐだけでは届かなかったところに手が伸び、その場面での行動が少しずつ動いていく。既存のコンプライアンス教育で扱っている扱いにして先送りしていた頃とは、手の届く範囲が変わってきます。行動変容は年度末の受講率ではなく、その場面で実際に何が起きたかで語れるようになるでしょう。

経営に対して実施回数でしか成果を説明できなかった事情も、ここで形を変えます。場面と行動の単位で体系を持てば、どの場面に何年かけて手を打っているかという説明に変わります。守る側と変える側を分けて示せるため、人材への投資を社外に説明する文脈でも、一覧の長さではなく、組織として何を維持し何を動かしているかを語れるという可能性が広がります。

この読み方は、研修計画の枠を超えて使えるかもしれません。取引先や商材の知識が人に付いたまま組織に残らないという、専門商社が長く抱えてきた課題にも当てはめられます。知識の継承を、守る側の取り組みと変える側の取り組みに分けて置き直せば、組織開発の取り組み全体を同じ地図の上で運べるという視点が開けるでしょう。

反復練習を支える手段としてのAIビジネストレーニング

変える側の時間軸を半年単位で回すには、同じ場面を繰り返し練習できる機会が要ります。これまで使ってきた手段は、この点をどこまで引き受けられるでしょうか。集合研修は議論と気づきの共有に向きますが、全国の拠点から営業を集める日程は年に1回取れるかどうかで、同じ場面を繰り返し練習する回数は確保しにくいところです。eラーニングは全員の下限をそろえ直す守る側の時間軸に適します。先輩に付いて学ぶ現場での育成は、指導する人の力量に左右されやすい面があります。どれも向く場面を持ちながら、変える側を半年単位で支える手段としては届きにくいわけです。

ここで一つの選択肢になるのが、株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニング「ミチビカ」です。ケースストーリーを読んでから自分の考えを述べ、AIとのロールプレイで実際のやり取りを練習し、その場でフィードバックを受ける流れで進みます。取引先とのトラブルを上司に第一報として伝える場面や、板挟みの中で顧客に中間報告する場面を、相手の都合を気にせず何度でも練習できます。拠点が分散し出張が多くても、変える側の時間軸を止めずに回せるという使い方ができます。他者の事例をもとに考えるケースストーリー型の学習は、知識の定着と応用を助けるとされており、厳しいやり取りを人相手に再現しにくい場面ほど、この形が向いていると考えられます。

効果の見え方についても触れておきます。受講から6か月後に受講者の上司へ行った追跡アンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%を超えていました(当社調べ)。これは受講者本人の自己申告ではなく上司による他者評価であり、今回のテーマ以外の業種・研修も含む全体の集計です。場面ごとの行動で体系を語りたい人事にとって、年度末の受講率とは別の物差しになりえます。

運用の面では、同じ顔ぶれで一定期間続けるグループの単位で進めるため、一定の受講人数と静かな受講環境が必要になります。ただ、拠点をまたいで同じ顔ぶれのグループを組めるうえ、既存の社内研修資料や営業マニュアルを取り込んだカスタマイズにも対応できます。全社員向けの定額版コンプライアンス研修は、守る側の時間軸を毎年そろえ直しながら、変える側の場面練習を同じ仕組みの中に置きたい人事部に向いています。守る側の教育と、変える側の場面練習を同じ体系の中でどう運ぶか。現在の研修一覧をもとにした棚卸しからご相談いただけますので、AIビジネストレーニング「ミチビカ」の資料請求・個別相談もあわせてご検討ください。

明日の研修計画づくりから始められること

手段が変える側を支える位置に収まると、残るのは体系の読み方をどう持ち続けるかという話になります。ここまでで効いたのは、施策を続けるか終えるかを1件ずつ決める前に、それが毎年そろえ直すものか数年かけて変えるものかを決めるという一手でした。この順番を入れ替えるだけで、判断のよりどころが個人の記憶から体系の側へ移ります。

手元に残るのは、研修名ではなく現場の場面で書き直された一覧と、その場面をどちらの時間軸で扱うかを拠点と交わした合意の記録です。この2つがあれば、来年度の計画づくりは前年の一覧をなぞる作業ではなくなります。逆に、体系の読み方を変えないまま手段だけを増やしていくと、また同じ一覧に戻ってしまいます。

年度の見直し期に机に向かっていた人材開発課の課長は、拠点会議の30分を借りて場面ごとの時間軸を確認しました。重なっていた2つの施策を1つにまとめ、何もぶら下がっていなかった第一報の場面を変える側に置いた。拠点のマネジャーは、時間の余裕がない中でも、どこまで分かった時点で第一報を上げるかという基準を若手に言葉で伝え、翌週にその通りにできたかを確認し、質問を受ける場を短く取るようにしました。3年目の営業担当は、メーカーの回答が出ていない段階で上司に一報を入れ、顧客への中間報告を先に済ませています。

明日、手元の研修一覧を1枚開いて、右端に守る側か変える側かを書き込む。始められるのはそこからで、全体を作り直す必要はありません。長い一覧を前に判断を先送りしてきた時間は、決して無駄ではなく、どの場面が繰り返し戻ってくるかを知る材料になっています。ぜひこの記事でご紹介した進め方は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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