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卸売業の人材育成を受講率の管理から現場の議題を持ち込む学びへ

業界別活用法11
著者: アーテリジェンス編集部
卸売業の人材育成を受講率の管理から現場の議題を持ち込む学びへの内容を表すビジネス研修のイメージ

# 卸売業の人材育成を受講率の管理から現場の議題を持ち込む学びへ

最終更新日:2026年9月24日

卸売業では、一人ひとりの成長を会社の成長につなげる人材育成が、経営の課題として語られる場面が増えています。階層や年次に応じた研修体系は、すでに一通り整っている企業が多いのではないでしょうか。整っているからこそ、人事の関心は体系をどう作るかから、用意した学びが現場でどう使われるかへと移っています。

事業領域と取引先が広がり、社員が本社以外の場所で働く比重も増えています。そのなかで、案内を出しても受講の優先順位が上がらない、受けた後に何が変わったのかが見えないという声が、人材育成を担う部署から出てきます。受講率は前年並みで、対象者への提供という意味では例年どおりに終わっている。それでも現場から研修の話題が返ってこない状態が続いている。育成体系を整え終えた人事・人材開発の担当者ほど、この手応えの薄さに引っかかるところだと思います。それでは、整えた学びが現場に残らない理由について、現場に残っている議題という観点から探っていきましょう。

この記事の要点

  • 階層別研修の出席がそろっても学びが現場に残らないのは、受講者の意欲だけの問題ではなく、研修の意味をつくる人と支える人と受け止める人が分かれていることによる。
  • 人事が督促を増やすほど、研修は人事から課される仕事として受け取られ、その後の施策でも現場の協力を得にくくなる。
  • 本記事は、研修を現場へ配るものとしてではなく、現場に残っている課題が持ち込まれる場として見ることで、人材育成の打ち手がどこから変わるかを示す。

督促で埋まる出席と形骸化していく階層別研修

案内が届いても受講の優先順位が上がらない。この状況は、本社から離れた場所で働いている人ほど、はっきりした形で現れます。ここからは、グループの事業会社へ出向している30代の課長層のところまで降りて、人事がとる対処と、そのあとに何が残るのかを見ていきます。

本社からの督促で埋まる出席枠

総合商社では、本社に籍を置きながらグループの事業会社や海外拠点へ出向し、数年単位で持ち場が変わることが多くあります。研修の案内を出すのは本社人事ですが、当日の業務を調整し、受講後の変化を見るのは出向先の上司です。この両者が直接つながっていない場合があります。

例えば、出向中の30代の課長層に、本社人事が階層別のマネジメント研修の案内を送ります。案内は本社から本人へ届きますが、出向先の上司は本社研修の狙いを聞いていません。期末の目標設定や決算対応と重なると、話題になるのは出席をどう調整するかだけになります。

人事はここで、未受講者を一覧にして本人と出向先の上司へ督促を送ります。受講を一律に必須化し、日程を組み直すこともあります。出席がそろえば、対象者への提供が完了したと社内に示せます。限られた工数のなかでは、この手がいちばん早く結果になります。同じ手を選んでいる会社は少なくありません。

しわ寄せは、出向先の上司と受講者本人に回ります。上司は研修の狙いを聞かないまま、当日の業務の穴埋めを調整します。受講者は担当案件を抱えたまま参加し、内容が自部門の商材や収益構造、部下の実課題に結びつかないまま時間が過ぎていきます。そして、学んだことを試す時間は、期末の目標設定や決算対応に押し出されます。督促を重ねれば出席はそろいます。ではなぜ、そろった出席の先で学びだけが残らないのでしょうか。

研修の意味を引き受ける人の不在

この行き詰まりは、一つの会社の事情に閉じた話ではありません。厚生労働省の能力開発基本調査では、人材育成に何らかの問題があるとする事業所が80.1%にのぼると報告されています(*1)。多くの会社が、同じところで足を止めているという結果です。

同じ調査では、正社員が会社に求める支援として、就業時間の配慮が32.1%を占めるという結果も出ています。そこから読み取れるのは、本人のやる気を問う前に、学ぶ時間を誰が確保するのかが問われている状況です。意欲の高さだけで説明できる話ではなさそうです。

では、その時間が確保できないのは、人手や予算が足りないからでしょうか。研修の意味をつくる人、参加の時間を支える人、受講後の変化を受け止める人は、本社人事と事業部門と出向先の上司に分かれています。誰も全部は担っていない。ここが、同じ状態の続く理由になっているのかもしれません。工数や予算を積み増しても、意味づけの担い手が決まらないかぎり、督促と出席の往復が繰り返されやすいところです。

研修の意味は配るものか持ち込むものか

意味づけを引き受ける人が決まらないまま、出席の記録だけが積み上がっていく。この状態は、研修をどこから見るかを変えると、別の形に見えてきます。

そこで置き換えたいのが、研修を見る焦点です。現場に残っている未解決の議題を受講者が持ち込む場として研修を見る、この焦点の置き方を、本記事では議題の持ち込みと呼ぶことにします。研修は人事が現場へ配る機会だという前提を、いったん外してみる、という置き方です。参加の意味は事前の説明で配られるものではなく、自分の部門の困りごとがその場で扱われると分かった時点で本人の中に生まれる。そう考えてみると、どうでしょうか。これは網羅的な方法論ではなく、階層別研修を見直すときの入口として差し出すものです。以降の章でも、この呼び方のまま使っていきます。

この見方で、期末の調整に追われていた出向先の上司をもう一度見てみます。出席を渋っているように見えた上司は、自部門の議題が扱われると分かれば時間を出す判断ができる立場にいる、という見方もできます。受講者が部下に任せきれずに抱えている案件こそが、参加の理由になりうるわけです。

この焦点が効いてくるのは、事業領域も地域も異なる総合商社だからです。共通の内容を丁寧に作り込むほど、それぞれの現場からは遠い話に見えてしまいます。議題を持ち込む形にすれば、共通の枠組みは保ったまま、中身だけが現場ごとに変わります。内容をそろえるか現場に合わせるかで判断が割れる場面でも、どちらかを捨てずに選べる形になります。

研修の場で身につけたことが、実際の仕事の場面で使われるかどうか。これは本人の力だけで決まるものではなく、研修の設計と職場の環境、上司や同僚の支えに左右されると整理した研究が、1988年に報告されています(*3)。意欲を個人の性質として見ないための土台として、この見方と重なる部分だけを受け取っておけば十分です。

現場の未解決の議題を研修の入口に置く

自分の部門の困りごとが扱われると分かったときに参加の意味が生まれるのなら、手をつける場所は、案内の出し方と受講後の扱いになります。ここからは、議題の持ち込みを自社で回せるかどうかを見積もれるところまで、手順に降りていきます。

勘どころは2つです。ひとつは、持ち込む中身を人事が決めず、本人に選ばせること。もうひとつは、受講後の報告先を人事ではなく出向先の上司に置くことです。人事の作業は、案内文の欄を1つ増やし、報告の宛先を書き換える範囲で足ります。体系そのものを作り直す必要はありません。

受講前に自部門の議題を1つ決めて持ち込む

受講前にやることは1つです。担当案件のうち決めきれずにいるものを本人が1つ選び、出向先の上司に「これを持っていく」と一言伝える。ここまでを案内文に書きます。督促の文面を強めるのではなく、書く欄を1つ増やすという手の打ち方です。

研修の中では、その議題を別の事業会社や地域の同じ階層の受講者と突き合わせます。同じ課長という立場でも、扱う商材も地域も違えば、どこで踏み込みどこで止めるかの判断は分かれます。分かれた箇所を言葉にして持ち帰るところまでが、この場でやることになります。

受講後の報告先を出向先の上司にする

受講後は、書面の報告ではなく、10分程度の対話を上司と持ちます。上司が返すのは良し悪しの評価ではなく、「その判断でいくか」という一言です。変化を受け止める人を、本人のいちばん近くに置くための手順だと考えてください。

同業では、上司との事前の面談と、本人が選ぶ学習、評価項目での位置づけを組み合わせて、学びを本人と上司の対話の対象に据えた取り組みの例もあります。学びを個人の努力に預けたままにしない形が、すでにいくつか試されているということです。

上司自身が学んでいるかどうかが、部下の学習意欲や学習に使う時間と関わるという調査結果もあります(*2)。この調査は日本企業全般を対象としたもので、卸売業や総合商社に限った結果ではありません。そこから読み取れるのは、受講後の10分を上司に持たせる形が、本人の意欲を後押しする側に働きうるということです。

持ち込んだ議題が動き出すと現場と人事の関係が変わる

受講後の10分が上司との対話になると、研修は本社から届く予定ではなく、自部門の案件の続きになります。では、この形を続けた先には何が見えてくるでしょうか。

督促で確保できなかったのは、出席ではなく、学んだことを試す時間でした。出向先の上司が自部門の議題として研修を見るようになると、日程の調整は業務の穴埋めではなく案件の相談に変わっていきます。試す時間が、上司との10分の対話という形で、受講前から予定に入る可能性が出てきます。受講者にとって研修が人事から課される仕事ではなくなれば、次の案内が届いたときの受け取り方も変わっていくでしょう。

事業領域や地域ごとに期待される役割が異なり、共通の内容が現場に接続しにくい。この事情は、枠組みを共通にしたまま、中身を議題の側に預けることで扱えます。異動や出向のたびに学び直しになっていた部分も、持ち込んだ議題と判断の分かれ目が記録として残れば、次の任地へ持ち越せるという見方ができます。

議題の扱われ方が社内で共有されると、次は同じ階層の横のつながりを使う道が開けます。他の事業会社や地域の課長どうしが、互いの議題を相談し合う形へ広げられる可能性が広がります。

出向先や海外駐在でも反復できるAIビジネストレーニング

議題を持ち込んで判断の分かれ目を言葉にし、上司に返す。この流れを一度きりで終わらせずに回し続けるには、何が要るでしょうか。これまで使われてきた手段を、向く場面と届きにくい場面で並べてみます。

集合研修には、同じ場に集まるという前提があります。職場を離れて行う研修として腰を据えて考える時間は取れますが、時差のある拠点や、出向先の繁忙と重なる時期には、参加できる人が限られます。eラーニングは時間を選べます。ただ、持ち込んだ議題に対して返ってくるものがなく、判断の分かれ目を言葉にする練習には向きません。どちらも使いどころがないわけではなく、反復という一点で届きにくいということです。

株式会社アーテリジェンスが提供する AIビジネストレーニング「ミチビカ」は、AIとの対話でビジネススキルを練習する仕組みです。自社の場面に沿ったケースを読み、自分の考えを話し、その場で良い点と改善点の返しを受けます。持ち込んだ議題に近い場面を、期間中は何度でも練習できます。

上司に10分で説明する前に、言い回しをひととおり試しておきたい。人を相手にせずにそれができるところが、AIロールプレイの使いどころになります。時差や繁忙で同じ時間に集まれない出向者や海外駐在者も、期間内であれば自分の時間で進められます。人事は受講状況をダッシュボードで把握できるため、督促の一覧を作らなくても進み具合が見えます。

当社が受講半年後に受講者の上司へ行ったアンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%を超えていました。本人の自己申告ではなく、上司による評価です。当社調べであり、今回のテーマに限らない当社研修全体の集計になります。

受講3か月後の時点では78%という結果でした。変化を受け止める人を上司に決めるという本記事の進め方と重なる数字で、人的資本経営の文脈で社内に説明する際の材料にもなります。

話しながら進めるため、静かな受講環境が要ります。この点は、自宅や個室からの参加に対応しており、自社の営業マニュアルやグループの事業会社ごとの場面を組み込むこともできます。持ち込まれる議題が増えるほど、練習したい場面も事業会社ごとに変わっていくはずです。標準の内容がそろったマネジメント研修を起点に、自社の事業会社や地域ごとの場面を差し込む形は、階層別研修の体系は整っているのに現場で使われていないと感じている人事部に向いています。そうした手応えの薄さが残っている場合は、自社の事業会社ごとの場面を組み込んだ設計例と、上司を巻き込む運用の進め方をご案内しますので、資料請求や個別相談からお気軽にお声がけください。

明日の案内文から始める人材育成の組み直し

練習を重ねて上司へ10分で報告する往復が回り始めると、人事の手元に残るものも変わってきます。ここまでの道のりを、最後に短くたどり直しておきます。

効いたのは、参加の意味を本人のやる気に求めず、現場に残っている議題の側から作るという一点でした。受講率をどう上げるかという問いからいったん離れて、誰がどの議題を持ち込んだかを見る。そこに立つと、手元に残るのは督促の一覧ではなく、持ち込まれた議題の一覧と、上司との10分の対話で交わされた記録になります。

出向中の課長は、持ち込んだ案件の判断基準を、若手に自分の言葉で示すようになりました。実際にやってみた結果を後で確認し、短くても質問を受ける時間を取ります。忙しさを理由に自分で決めていた場面が、基準を渡して任せる場面に変わっています。

本社の人材開発担当は、未受講者の督促に使っていた時間を、持ち込まれた議題を読む時間に充てています。読んだ内容は、次の階層の設計にそのまま反映されていきます。督促の件数ではない指標が、人事の手元にできたということです。

ここまで体系を整えてきた手間は、無駄にはなりません。次の案内文に、持ち込む議題を1つ書く欄を足す。そこから動き出せます。ぜひこの記事でご紹介した進め方は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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