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情報通信業の人材育成を個人の意欲ではなく現場の役割分担で組み直す

業界別活用法27
著者: アーテリジェンス編集部
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# 情報通信業の人材育成を個人の意欲ではなく現場の役割分担で組み直す

最終更新日:2026年8月15日

人的資本経営という考え方が広がるなかで、情報通信業の人事部にも、育成にかけた投資が事業の力にどうつながったのかを説明する役割が求められるようになりました。階層や年次ごとの研修を並べるだけでは足りず、一人ひとりの成長を組織の持続的な成長につなげる人材基盤づくりへと、関心の置きどころが移ってきています。

情報通信業では、既存の事業から配信やデジタル領域への転換が進んでいます。これまでの経験だけでは足りない層に向けた研修は、以前より確実に増えました。案内も届いています。それでも、学んだことが日々の仕事の進め方に反映されたかどうかまでは、人事の手元からは見えにくいままです。研修を用意し、対象者に届けるところまでは手を尽くしている。にもかかわらず、次に何をすれば現場の動き方が変わるのかが分からない。階層別研修や人材育成体系の見直しを担う立場にある方なら、この手応えのなさに覚えがあるのではないでしょうか。それでは、受講率が上がっても仕事の進め方が変わらないのはなぜなのか、現場の役割分担という観点から探っていきましょう。

この記事の要点

  • 情報通信業の人材育成では、受講率が上がっても現場の動き方が変わらない状態が起きやすい。
  • その原因は受講者本人の意欲よりも、研修の意味を伝える人、時間を空ける人、成果を受け取る人が決まっていないことにある。
  • 研修を1つの企画として捉え、関わる人の役割を先に決めておくと、階層別研修も現場で使われるところまで届きやすくなる。

受講率は上がるのに人材育成が現場に定着しない状態

学んだことが仕事に反映されたかが見えないとき、人事部の手元にはどんな手段が残っているでしょうか。ここでは、多くの育成担当者が実際に取っている対応と、その先で現場に何が起きているのかを順に見ていきます。

校了直前に指名された編集者の1日

まず打たれるのは、対象者を一律に受講必須とし、案内とリマインドを重ね、未受講者を一覧にして本人と上司へ督促するという一手です。この方法には確かな手応えがあります。受講率という誰にでも示せる数字が動くからです。育成の企画が前に進んでいる感覚は、その場では確かに得られます。

例えば、情報通信業で雑誌と配信メディアを持つ、従業員1,200人規模の出版社を想定してみます。人事部の育成担当者は、紙媒体を中心にやってきた中堅編集者に配信領域の階層別研修を企画し、対象者を一律に指名して受講を必須にします。ここで押さえておきたいのが、月刊誌の仕事の周期です。企画会議、取材と執筆、入稿、校了、発売という流れを毎月繰り返し、校了の直前は編集部の全員が同じ締め切りに向かいます。校了とは、誌面の内容を最終確認し、印刷に回してよいと決める時点を指します。研修の日程をこの周期のどこに置くかで、受けられるかどうかがほぼ決まってしまいます。

指名された週が、ちょうど校了直前でした。中堅編集者は入稿と校正を抱えたまま受講し、戻れば発売までの工程に埋もれて、学んだことを試す時間がありません。編集長は代わりの手を用意できないまま、行っておいでと送り出すしかない。そして未受講の督促の連絡は、編集長の手元にも溜まっていきます。受講率は9割を超えました。それでも3か月後、企画の立て方は変わっていません。

送り出す側にも受け取る側にも余白がない現場

なぜこの状態が続くのでしょうか。研修の企画は人事、参加の可否は編集長、受講後の活用は本人。担い手がこのように分かれた結果、受講の意味を伝える仕事、業務時間を空ける仕事、戻ってきた変化を受け取る仕事のいずれもが誰の担当でもなくなっているのかもしれません。3つとも、誰かがやらなければ進まない仕事です。それでいて、誰の職務にも書かれていません。

ここで気をつけたいのは、これが人手や時間が足りないという話とは別だという点です。仮に人員に余裕があっても、担当が決まっていなければ同じことが起きます。制作会社やフリーランスが同じ座組みに入り、校了周期も動かせない現場では、日程調整も一律の必須化も通りにくい。担当者は督促を強める以外の手を持てずにいます。

その督促の宛先である上司の側には、どれだけの余力が残っているでしょうか。厚生労働省の能力開発基本調査では、能力開発に何らかの問題があるとした事業所が79.9%にのぼり、その内訳として指導する人材の不足が59.5%、人材育成を行う時間がないが47.4%と報告されています (*1)。この調査は事業所を対象に、能力開発上の問題点を複数回答で尋ねたものです。督促を受け取る側にも、支援に回せる余白はそもそも多くない。そこから、督促を強める方向にはあまり出口がないと読み取れます。

研修は誰と誰で組むものか

誰の担当でもない仕事が3つ残っている一方で、同じ会社の制作の現場では、担当の空白がそのまま放置されることはまずありません。制作の現場では、1本の企画に対して担当と外部の書き手や制作会社の組み合わせを先に決めてから動き出すのが通例で、決めないまま進行することはまずないからです。この決め方を、研修にも当てはめてみるとどうでしょうか。

研修の座組みと呼ぶことにします。座組みとは、1本の企画に誰がどう関わるかを決めた組み合わせのことです。1本の番組や1冊の雑誌を立ち上げるときと同じように、受講を1つの企画として捉え、誰がその意味をつくり、誰が時間を空け、誰が戻ってきた成果を受け取るのかを先に決めておく。制作物であれば、企画意図と座組みを決めずに動き出すことはまずありません。ところが研修だけは、その2つを決めないまま案内が配られている。だとすれば、見るべきものも変わってきます。受講者を数える代わりに、1人の受講の周りに何人が関わっているかを見る。この記事の整理として、人事に提案したいのはこの並べ替えです。

校了直前に送り出されたあの編集者の場面を、この見方から眺め直すとどうなるでしょうか。欠けていたのは本人のやる気ではなく、この受講が誰の何を変えるためのものかを書いた1行と、代わりの手と受け取り先を決めた組み合わせだったと見ることができます。編集長の手元に溜まっていった督促の連絡は、座組みの空白を人事が1人で埋めようとした跡だった、という読み方もできます。

この見方が使いやすいのは、新しく何かを作らなくていいところです。受講者の動機づけや案内文の工夫に答えを求める道もありますが、この見方は、放送や出版の現場がすでに毎号毎回行っている決め方をそのまま研修に当てはめるだけで済みます。新しい制度も新しい会議も増やさず、制作の進行表の書き方の側から手をつけられる。制作サイクルが固定された職場でも実行できるのは、この点によります。

受け取る人がいないとどうなるかについては、調査の側からも材料があります。パーソル総合研究所の学び合う組織に関する調査では、学んだことを同僚に共有していない学習者が56.2%、職場で学びが見える状態にあるのは19.7%と報告されています (*2)。この調査は、学習行動をとっている就業者に対して職場での共有の状況を尋ねたものです。受け取る人が決まっていない限り、学びは本人の中で完結し、周囲には残らないということになります。

送り出す前に受講の座組みを1枚に決める

では、その座組みを、指名の連絡を出す前の実務にどう下ろすか。ここからは、手をつける順序に沿って3つの手順を見ていきます。どれも既にある書類と会議の中で収まる範囲のものです。

受講の目的を企画意図として1行で書く

受講の指名を出す前に、この受講で誰の何をどう変えたいかを1行で書きます。対象者の名前と、その人が担当している業務の場面を入れるのがポイントです。そして同じ1行を、本人と上司の双方に渡します。案内文の目的欄を全対象者共通の文言にしている場合、ここが従来との分かれ目になります。全員に同じ文言を配るのをやめ、1人ずつ書く。要するのは1人あたり数分で、担当替えも新しい制度も要りません。

次に、指名の連絡と同じタイミングで上司と話します。受講日を制作の進行表に1コマとして置き、その時間に誰が代わりを持つかと、受講後にどの号のどの企画で試すかを、その場で決めておきます。校了直前の週を避けて入稿明けに置く。それだけでも、送り出す側は代わりの手を組めるようになります。あの編集長が行っておいでと言うしかなかったのは、代わりの手を考える材料が指名の連絡に入っていなかったからでもありました。時間を空ける仕事の担い手は上司ですが、上司が動けるだけの情報を渡すのは、指名を出す側の仕事になります。

戻ってきた学びを受け取る場を先に押さえる

3つ目は、受け取る場です。新しい振り返り会は作りません。次の企画会議の冒頭に数分を取る形で足ります。誰が聞くのかが決まっていれば、受講者は話す相手を持って戻れます。

この順序には、研究の側からの裏づけもあります。学んだことが職場で使われるかどうかは、本人の意欲だけでなく、上司の支援、同僚の支援、実際に試す機会の有無と関連するという研究結果が出ています (*3)。多くの研究を集めて集計した分析によるものです。座組みで決める3つの役割は、この3つとちょうど重なります。

学びが次号の企画会議に乗りはじめる

1枚に書き出した座組みは、現場でどう働くのでしょうか。受講日が制作の進行表の1コマとして先に置かれていれば、編集長は代わりの手を組んだうえで送り出せます。受講者の側も、入稿を抱えたまま呼ばれたから来たという状態で座る必要がなくなります。次にどの企画で試すかが決まった状態で戻るので、督促では届かなかった受講後の実践が、次号の準備の中で自然に始まる。この違いは小さくありません。人事の側も、受講率ではなく試された企画の数という形で成果を語れるようになるでしょう。

座組みを決める作法が定着すると、その先にも視野が開けます。紙と配信にまたがる担当のあいだで、誰が何を学んでいるかが見えるようになる。それは次の企画の人選や、異動の検討材料としても使えるようになります。ある出版社では、外部と組んで自社の実務に寄せた研修をまず一部の部署で試し、受講者が自分の部署にもと語ったことで次の募集が定員を超えたという取り組みも報じられています。学びが個人の内側で止まらなくなると、こうした広がり方も起こりうるということです。

そして、日程調整の最大の壁だったはずのものが、ここで別の顔を見せます。校了や発売日が動かせないことは、研修を阻む制約に見えていました。しかし周期が決まっているからこそ、受講をどの週に置くかを毎回同じ手順で決められます。動かせない周期は、日程調整の障害から座組みを組む出発点に変わるという見方もできるでしょう。

制作の合間に反復できるAIビジネストレーニング

こうした状態を1回で終わらせず続けていくには、何が要るでしょうか。これまで使われてきた手段を、それぞれが向く場面から振り返ってみます。職場を離れて受ける集合研修は、同じ場で議論できる利点があります。ただし日程が校了と重なれば、せっかく組んだ座組みごと崩れます。日々の仕事の中での指導は、その場の文脈に沿って伝えられる反面、編集長の余力に左右されます。eラーニングは時間の自由がききますが、練習も振り返りも本人の中で完結するため、座組みで決めた受け取り手が関わる接点が生まれにくいところがあります。

株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニング「ミチビカ」は、実際の職場に近いケースストーリーを読んだうえで、AIを相手に自分の考えを述べたり対話を練習したりして、その場で振り返りを受ける形式の研修です。同じ期間に同じ顔ぶれで進める形で運用しつつ、期間内であれば各自の進行に合わせて受けられます。社員と制作会社やフリーランスが混在し、同じ日時に集まることが難しい座組みでも、全員が同じケースで練習できるわけです。人事は管理画面で誰がどこまで進んだかを見られるので、督促の連絡そのものが要らなくなります。

効果の測り方にも、座組みの考え方が入っています。受講半年後に受講者の上司へ行った追跡アンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%を超えていました(当社調べ)。本人の自己申告ではなく、上司が変化を見る前提で測っています。座組みでいえば、受け取り手にあたる人が仕組みの中に組み込まれているということです。なおこの数値は、情報通信業に限らない全受講企業の集計です。

運用面では、声に出して答える場面があるため静かな環境が要ります。受講の場所と時間は期間内で選べるので、在宅や空いている会議室からでも受けられ、自社の制作現場に合わせたケースの作り込みもカスタマイズの範囲で対応できます。送り出す側の上司が同じケースで受け止め方を練習できる管理職向けのマネジメント研修のコースは、現場の協力を得にくいと感じている人事部に向いています。受講の座組みを自社の制作サイクルにどう合わせるかは、体制や雇用形態によって変わります。現場を巻き込む研修の設計例や導入の進め方について、資料のご請求とご相談を承っています。

次の校了が来る前に決めておきたいこと

ここまでお読みいただき、督促を重ねる日々に心当たりのあった方もいるかもしれません。この記事で扱ったのは、受講者を数える代わりに、1人の受講に誰が関わるかを決めるという1点だけです。手元に残るのは3つ。対象者の名前と場面を書いた1行の企画意図と、受講日を1コマとして書き込んだ制作の進行表、そして次の企画会議で数分を取るという約束です。

入稿明けの週に受講した編集者は、次号の企画会議の冒頭で、配信を前提にした企画の組み立て方を試したいと5分で話します。編集長はその場でどの記事で試すかを決め、締め切りと担当を進行表に書き込みます。人事の担当者に届くのは、未受講者の一覧ではありません。試された企画のタイトルです。

次の案内文を書く前に、対象者の名前を1人書き出してみてください。その人の受講を誰が支え、誰が受け取るのかを埋めるところから始められます。ぜひこの記事でご紹介した実践の手順は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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