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社会インフラ業の人材育成が浸透する条件を告知の回数ではなく語り直しで捉える

業界別活用法11
著者: アーテリジェンス編集部
社会インフラ業の人材育成が浸透する条件を告知の回数ではなく語り直しで捉えるの内容を表すビジネス研修のイメージ

# 社会インフラ業の人材育成が浸透する条件を告知の回数ではなく語り直しで捉える

最終更新日:2026年9月4日

安全運航と環境対応を担う人をどう育てるか。海運業では、人的資本経営への関心の高まりを受けて、階層や年次で区切った育成から、一人ひとりの成長とキャリアを組織の持続的な成長につなげる人材基盤づくりへ、人材育成の考え方を移す企業が増えています。方針を決めるところまでは進んでも、それを社内に広げる段になって手が止まる例は少なくありません。新しい方針を打ち出したあと、説明会を開き、社内ポータルで告知し、必要な承認と参加人数を確保するところまでは、たしかに前に進みます。ところが数か月後に現場を見にいくと、方針の言葉は日々の仕事のなかで使われておらず、人事の手元には出席者名簿だけが残っている。この移行を企画し、社内に広げる立場にある人事・人材育成担当者にとって、いちばん扱いにくいのはこの段だと思われます。それでは、方針が現場に残るかどうかを分けているものについて、海運業ならではの日程の事情から深掘りしていきましょう。

この記事の要点

  • 海運業では、人材育成の新しい方針が承認と参加人数の面では受け入れられたように見えても、立場ごとに別の意味で受け取られたまま残りやすい。
  • その背景には、届ける工夫を重ねるほど、受け取った側が自分の仕事に置き換える工程が抜け落ちるという事情がある。
  • この記事では、浸透を情報が届いた範囲で測るのではなく、受け取った人が自分の言葉で話し直したかどうかで測る見方を示す。

承認と参加人数が揃った後に残る理解のずれ

出席者名簿だけが残るという状態は、海運業では具体的な日程の話として立ち上がります。船に乗って働く海上職と、陸上の部門で働く陸上職とでは、そもそも同じ日に同じ場所に集まることができません。数か月の乗船と、その後にまとまった下船休暇が続き、これを繰り返す働き方を乗下船のサイクルと呼びますが、このサイクルがある限り、説明会や研修の日程を全員で揃えられないことが前提になります。しかも海運業では、海上職が陸上の運航管理や船舶管理の部門へ異動することがあり、育成方針は海と陸の両方の持ち場にまたがって受け取られます。そのため、説明はどうしても二本立てで走ることになります。

一斉告知と必須参加で人数を揃えるという対処

例えば、人事は、陸上の運航・船舶管理部門の管理職への説明会と、下船休暇中の航海士や機関士に向けた社内ポータルの一斉告知を、同じ資料で並行して進めます。参加が集まらなければ募集期間を延ばし、それでも足りなければ対象者を必須参加に切り替える。日程が押さえられて名簿が埋まれば、経営への報告に必要な形は整うため、この手順は自然な選択になります。

しわ寄せは、日程の側に向かいます。必須参加になった説明会の枠を確保するため、乗組員の配置を預かる陸上の管理職は、休暇日程と乗り継ぎの調整をやり直すことになります。下船休暇中の航海士のほうは、海技免状(船舶の運航に必要な国家資格)の更新講習と重なる週に説明を聞きます。この免状の更新には定められた講習の受講が必要で、下船休暇中に受けることが多いため、日程はどうしても混み合います。そして方針の言葉を持ち帰らないまま、次の乗船に出ていきます。

乗船サイクルをまたいで薄まる方針の言葉

ここで少し立ち止まってみると、足りていないのは情報の量なのでしょうか。国内航路の船員は50歳以上が43.6%、30歳未満が20.2%という年齢構成にあると報告されています (*1)。これは国内航路の船員を対象に集計されたものです。技能の引き継ぎは短期では終わらない仕事であり、人材育成の施策が浸透しないまま形だけ残れば、長い時間をかけるはずの引き継ぎもそのぶん遅れていきます。

説明の場が、人事から現場へ言葉を一方向に渡す設計になっていることが、この状態を長引かせているのかもしれません。受け取った側がその言葉を自分の乗船サイクルや担当船の仕事に置き換える工程は、誰の担当にもなっていないままです。置き換えが誰の手にも渡らないと、何が起きるでしょうか。人数と承認は数えられる一方で、方針が現場でどんな意味に読み替えられたかは人事の手元に戻ってきません。手元に戻ってこないので、次の説明も同じ資料で繰り返されます。この繰り返しは、担当者の熱意や説明の巧拙とは別のところで続いていきます。

届いた回数と語り直された回数のどちらで浸透を見るか

置き換えの工程が誰の担当でもない、という事実をそのまま裏返してみると、浸透の測り方そのものを入れ替える道が見えてきます。ここからは、何を数えれば方針が現場に残ったと分かるのかを考えていきます。

まず言葉を1つ用意します。人事が伝えた育成方針を、受け取った人が自分の持ち場の言葉に置き換えて誰かに話すことを、この記事では語り直しと呼ぶことにします。そのうえで、浸透を説明が届いた範囲で捉えるのではなく、方針が現場の言葉で語り直された回数で捉えてみると、どうでしょうか。語り直しは、施策の意味を受け手が作り直す作業にあたります。ですから、人事が用意した言葉のままで配っても起きません。海上と陸上で仕事の時間の流れが違う職場ほど、この置き換えが起きたかどうかが施策の行方を分ける、という見方もできます。

この見方に立つと、見にいく先が変わります。説明会の出席者名簿を眺めるかわりに、その翌週に船舶管理の担当者が乗組員へ何と言ったかを聞きにいくことになるでしょう。方針が「若手の当直経験を早めに積ませる話」と語られていれば、意味は生きています。当直(航海中に交代で持ち場を受け持つ勤務)は日々の運航そのものですから、その言葉で語られたなら方針は仕事の側に降りています。反対に「また人事から研修の案内が来た」と語られていれば、名簿が埋まっていても届いていないと分かります。

なぜこの業種でこの見方が使えるのか。乗下船のサイクルがあるため、説明の場に対象者全員が居合わせることがそもそもなく、一度で届けきる前提に立った浸透の測り方は成り立ちにくいからです。語り直しで見る方法は、居合わせなかった人へ誰がどう伝えたかを追う形になります。日程の制約と噛み合うのは、そのためです。学んだことが職場で使われるかどうかは、教える内容の質だけでなく、上司の関わり方や現場で試す機会、その後のやり取りに左右されると整理されています (*2)。そこから、語り直しの回数を見るという捉え方は、研究の側からも支持されうる位置にあると読み取れます。では、その語り直しを現場で起こすには、何をすればよいのでしょうか。

説明の前と後に語り直しの時間を1つずつ置く

語り直しは、待っていても増えません。ここでは、説明会という既にある場のなかに、語り直しが生まれる時間を組み込む手順を3つに分けて置きます。入口の聞き取り、出口の言い直し、集まった言葉の戻し方の順です。

説明の前に立場ごとの関心を1つ聞き取る

説明会の資料を作る前に、経営層、陸上の管理職、海上職のそれぞれに「この方針でいま一番気になっていること」を1問だけ聞きます。所要は一人5分程度です。面談や打ち合わせの終わりに足せば、新しい会議は要りません。聞いた答えの言い回しは、直さずにそのまま資料に残しておきます。そうしておくと、説明の場でその人の関心から話を始められます。

説明の最後に自分の担当での効き方を話してもらう

出口に置くのは、参加者一人ひとりが「この方針は自分の担当ではどう効くか」を1分で話す時間です。出た言葉は人事が書き取ります。陸上の管理職からは乗組員の配置の計画との関係が、下船休暇中の航海士からは当直や海技免状の更新との関係が出てきます。そこで、方針が何に読み替えられたかが分かります。

うまくいくかどうかは、記録の仕方で分かれます。人事が正しい言い方に直さず、ずれた言い方も含めてそのまま書き取れるかどうか。ずれた言い方こそが、いまその持ち場で方針がどう見えているかを教えてくれます。直した瞬間に、それは人事の言葉に戻ってしまいます。

集めた語り直しの言葉は、次の説明会の資料と経営への報告に戻します。経営には参加人数ではなく現場の言い回しを引用して報告し、現場には他の持ち場ではこう語られていたと紹介する。すると、二度目以降の説明が人事の言葉ではなく現場の言葉で進むようになります。

この3つの手順が、なぜ新しい会議を作らない形になっているのか。能力開発に何らかの問題があるとした事業所は79.9%にのぼると報告されています (*3)。この調査は事業所を対象に、能力開発上の問題点を尋ねたものです。その内訳を見ると、人材育成を行う時間がないが47.4%、指導する人材が不足しているが59.5%を占めます。新しい時間や新しい担い手を求める進め方は、現場では続きにくいわけです。だからこそ、既にある説明会と面談のなかに語り直しを差し込む形を選びます。育成の時間を取れない現場でも回せるかどうかは、ここで決まります。

語り直しが増えた職場で変わること

入口の聞き取り、出口の言い直し、言葉の戻し。この3つを一巡させたあと、職場には何が積み上がっているでしょうか。

説明会の最後に話された言葉が記録されていくと、方針は「人事から来た案内」ではなく、乗組員の配置の計画や当直の組み方といった持ち場の言葉として扱われるようになります。人事の側も、承認と参加人数だけを見ていたときには分からなかった、どの部門でどう読み替えられているかを手元に持てるようになるでしょう。募集期間を延ばしたり必須参加に切り替えたりして人数を確保していた頃には、施策の意味が立場ごとに揃わないという問題までは手が届きませんでした。語り直しの記録は、そこに触れられる数少ない手がかりのひとつになります。

説明会に居合わせられなかった乗船中の海上職はどうなるか。この人たちには、人事の資料ではなく、同じ持ち場の人が語り直した言葉が伝わります。そのぶん、次の下船時に説明をやり直す手間が減るという可能性が広がります。海技免状の更新講習や必須の訓練が優先される時期についても、語り直しは既にある集まりの終わりに1分置く形で足せるので、別枠の時間を確保する必要はありません。

同じ進め方は、外国籍の乗組員を含む乗組員の配置や、陸上部門の別の施策にも移せます。立場ごとの読み替えを記録する習慣ができれば、次に新しい人材育成の施策を出すときの入口が短くなる、という視点も開けてくるでしょう。ただ、乗下船のサイクルをまたいでこれを繰り返すには、何が要るのでしょうか。

乗下船のサイクルに合わせて語り直しを続ける手段

語り直しを一度きりで終わらせず、サイクルをまたいで続けるには、日程を揃えなくても言葉を交わせる場が要ります。これまで使われてきた手段は、その点でそれぞれ向き不向きがあります。集合研修は乗船と下船の日程を揃える必要があり、対象者が船に乗っている限り同じ日には集められません。eラーニングは日程を選ばない一方で、一方向のため語り直しの相手がいません。現場のOJTは教える側の人数と時間の余裕に左右されます。

株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニングのミチビカは、ケースストーリーを読んで自分の考えを話し、AIから返ってきた助言を受けて言い直す流れを、受講期間内であればいつでも繰り返せる仕組みを持っています。説明会の最後に置いた「自分の担当ではどう効くか」を話す時間を、下船休暇中や陸上勤務の期間に何度でも練習できます。人前で言い直すことに慣れていない人も、準備した状態で説明会に臨めます。一定期間を同じ顔ぶれで進めるコホート単位の運用のため、海上職と陸上職が混ざったグループを組めば、立場をまたいだ語り直しがそのまま学習の一部になります。

受講半年後に受講者の上司へ行ったアンケートでは、現場での行動が変わったとの回答が83%を超えていました(当社調べ)。これは受講者本人の申告ではなく上司による評価で、業種を限らない全体の集計です。語り直しを繰り返す設計が、現場での行動として残りうることを示す数字だと考えています。

受講には静かな環境と安定した通信が要るため、船上での実施は難しいところがあります。その代わり、下船休暇や陸上勤務の期間に合わせて受講期間を設定でき、自社の運航や安全の場面を教材に取り込むカスタマイズにも対応できます。階層別研修の体系を見直しはじめたところで、経営層と現場に同じ意味で伝えきれずにいる場合は、マネジメント向けのカスタマイズコースの相談窓口が向いています。乗下船のサイクルに合わせた受講期間の組み方や、自社の運航・安全の場面を教材に取り込んだ設計について、資料のご請求と個別のご相談を承っています。

まとめ

語り直しを繰り返せる場があるとすれば、次の一手は思っているより小さくて済みます。この記事で効いた見方は1つでした。浸透を届いた範囲ではなく、受け取った人が自分の言葉で話し直した回数で見ること。手元に残るのは、説明会の最後に書き取った現場の言い回しの記録であり、それが次の説明の材料にも、経営への報告の材料にもなります。名簿を数えていた頃と比べて、増える手間は1分です。

冒頭で触れた育成企画の担当者は、次の説明会の最後に1分ずつ話してもらう時間を入れ、出た言葉をそのまま持ち帰りました。陸上の船舶管理の担当者は、下船休暇明けの二等航海士に、時間の余裕がない乗り継ぎの合間でも、この方針が当直の組み方と海技免状の更新にどう関わるかを自分の言葉で伝え、分からない点をその場で受け付けました。人事の手元には、出席者名簿ではなく、持ち場ごとの言い回しが並ぶようになっています。

日程を合わせる工夫を重ねてきた方ほど、ここまでの手順は拍子抜けするかもしれません。それでも、次の説明会の最後に1分だけ、聞いた人が話す時間を置くところから始められます。ぜひこの記事でご紹介した進め方は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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