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小売業のハラスメント防止を個人の意欲ではなく店舗の関係性で組み直す

業界別活用法29
著者: アーテリジェンス編集部
小売業のハラスメント防止を個人の意欲ではなく店舗の関係性で組み直すの内容を表すビジネス研修のイメージ

# 小売業のハラスメント防止を個人の意欲ではなく店舗の関係性で組み直す

最終更新日:2026年8月23日

小売業では、ハラスメント防止の研修を全店へ届ける取り組みが広がっています。扱う中身も、ルールを覚えてもらう段階から、働く人が互いに尊重され安心して働ける職場をつくる段階へと広がってきました。ただ、店舗で働く人の多くは短時間勤務で、正社員向けに組まれた仕組みだけでは全員に届きません。全店の教育を預かる人事・人材育成の担当者にとって、誰にどう届けるかは毎回の悩みどころになります。

全店へ一斉に案内を出し、期限を切って受講を促す運用が定着し、受講率の数字は年々きれいに揃うようになりました。未受講が残っても、期限までには帳尻が合います。数字の上では、施策は毎年きちんと実施されている形です。ところが、店舗で起きた言い方や関わり方の問題が人事へ相談として上がってくることは、以前と比べてそれほど増えていないのではないでしょうか。研修は全店に届いているのに、現場から返ってくる声だけが以前のままという感触が残ります。

受講率という物差しは、確かに進み具合を教えてくれます。ただ、その数字が揃うほど、店舗で何が起きているのかは見えにくくなっていくのかもしれません。それでは、ハラスメント防止の研修が現場の言動につながるまでの道のりを、店舗の関係性という観点から探っていきましょう。

この記事の要点

  • 小売業のハラスメント防止研修では、受講率が上がるほど現場の実態が見えにくくなるという逆転が起きやすい。
  • 必須化と督促は実施の証跡を作るが、店舗で学びを試す時間と、試した結果を受け止める相手までは用意しない。
  • 参加を本人の意欲としてではなく、研修の意味が誰から誰へ渡っているかとして見ると、人事が手を入れられる場所が変わる。

全店で受講率が上がってもハラスメント研修が形骸化する理由

受講率が揃うことと、店舗の言い方が変わることは、どうやら別々に動いています。その分かれ目がどこにあるのかを、実施週の朝の店舗からたどってみます。

まず必須化とリマインドに手が伸びる

例えば、コンビニエンスストアを全国展開する会社で、本部人事が全店を対象にハラスメント防止の実施週を設けたとします。直営店と加盟店の店長は、開店準備のシフト表を見ながら、短時間勤務のスタッフの受講枠を作ろうとします。加盟店とは、本部と契約して店舗を運営する事業者を指し、本部からの施策は指示ではなく依頼の形で届きます。欠員が出た日は品出しとレジが優先され、受講枠は翌日以降へ回り、期限直前の消化で終わります。店舗で働く短時間勤務のスタッフの学習時間はシフトの中に枠を取らないと生まれないため、受講するかどうかを実際に決めているのは本人ではなく、その日の人員配置を組む店長です。

この負担のかかり方は、業種の成り立ちとも重なります。卸売業・小売業で働く人のうち、短時間勤務やパート・アルバイトで働く人の割合は50.9%で、全産業の36.8%を上回るという結果が出ています(*1)。産業ごとの集計であり、店舗単位の人員構成を示すものではありません。

受講が進まないと分かると、人事の手はまず必須化と督促に伸びます。対象を一律の必須へ切り替え、案内メールとリマインドを増やし、未受講者の一覧を店長へ送ります。期限までに数字が戻るため、この手当ては効いているように見えますし、次回も同じ手順が選ばれます。

督促を受け取った店長は、開店前の短い時間に、自分の端末で受講を済ませるようスタッフへ伝えます。内容には触れないまま、期限には間に合います。その数日後の早朝、品出しの最中に年上のパート従業員が新人へ強い口調で手順を指摘し、客のいる前で新人が黙り込みます。レジに入っていた店長がその出来事を知るのは翌日でした。受講は完了しているのに、その日の店舗には研修で扱ったはずの言い方が残っていません。

意味を渡す人がいないまま届く受講案内

では、この店で足りなかったのは何でしょうか。受講案内は本部から店舗へ確かに届いています。届かなかったのは、なぜこの人に受けてほしいのかという意味のほうで、店舗には期限だけが渡っていました。同じ手順を何度か繰り返すと、店舗に残るのは受講済みという記録で、言い方をどう変えるかという話は誰の手元にも残りません。

研修で扱った言い方を店舗で試す場面も、試した結果を受け止める相手も決まっていないため、学びは受講の完了とともに行き場を失いやすくなります。早朝の品出しで黙り込んだ新人にとって、相談できる相手はあの朝どこにいたのでしょうか。ここで足りていないのは、スタッフ本人の意欲ではなく、意味を渡す人と、戻ってきた変化を受け止める人のほうかもしれません。

参加する気持ちは店舗の誰から生まれるのか

意味を渡す人がいないという見立てに立つと、参加という言葉の指すものも変わって見えてきます。ここでは、受講者1人の気持ちから、その前後に立つ人たちのつながりへ焦点を移してみます。

研修の意味が人事から店長へ渡り、店長からスタッフへ渡り、そして現場で起きた変化が店長を経て人事へ戻る。このひと続きの流れを、この記事では学びの受け渡しと呼ぶことにします。受講率が教えてくれるのは、この連なりのうち1区間が通ったという事実だけです。どこか一区間でも渡し手が不在なら、受講は完了しても意味は届かないと考えると、参加は本人の意思の強さではなく、渡す場面が用意されているかどうかの結果として立ち上がってきます。受講者を1人で見る代わりに、その前後に立つ人を数えるところから始めてみてはいかがでしょうか。

学ぼうとする気持ちが本人の中だけで決まるわけではないことは、調査からもうかがえます。職場に仕事や学びのやる気を下げるような周囲からの働きかけがあると答えた人は18.1%、30代では22.4%にのぼると報告されています(*2)。働く人本人に尋ねた調査で、業種を限った集計ではありません。そこから、学ぶ気持ちは周囲との関係の中で上下していると読み取れます。

早朝の品出しの出来事を、受け渡しの側から眺め直してみます。問題の在り処として浮かび上がるのは、黙り込んだ新人ではなく、受講案内に一言も添えられなかった数日前の朝のほうです。そして、同じ店長が翌日に話を聞く相手として立てていたかどうかが、その後の分かれ目になります。

一般的な受講率の話は、本人の動機づけをどう強めるかへ向かいます。ただ、シフト制で全員が同じ時間に集まれず、加盟店には施策が依頼の形でしか届かない小売業では、本人の動機づけを強めるほど店長の調整負担が増えるという逆流が起きます。受け渡しの見方は、誰の手元で意味が止まっているかを名指しできるため、店舗の忙しさを増やさずに手を入れる場所を選べます。

この見方は、心理的安全性の考え方とも重なります。心理的安全性は、率直に言っても不利益を受けないと思える職場の土台を指し、仲のよさとは異なります。1999年に Amy C. Edmondson が示したこの考え方は、そうした土台があるほど学ぼうとする行動が生まれやすいことを述べており、受け渡しの見方は、その土台を誰と誰のあいだに作るのかという問いに置き換えたものにあたります。

そう考えると、打つ手は本人の動機づけの工夫ではなく、意味を渡す場面をどこに置くかという設計の話になります。次に、その場面を店舗の一日のどこへ差し込めるかを見ていきます。

送り出す前と戻ってきた後に短い会話を挟む

空きやすい区間は、受講案内が店舗に届く手前と、受講が終わった直後の2か所です。自社で回せるかどうかは、この2か所に何分割けるかで見積もれます。

受講案内に店長の一言を添えて渡す

人事が手を入れるのは、受講案内そのものではなく、店長がスタッフへ一言添えられる材料を用意するところです。案内文に研修の目的を書き足す代わりに、この店で最近あった困りごとに紐づく問いを1つだけ添え、店長がそのまま口に出せる形にしておきます。「品出しの最中に、手順をどんな言い方で伝えていますか」。この程度の長さであれば、店長は開店前のわずかな時間でも口に出せます。渡す相手を店長に絞ることで、加盟店へ依頼の形でしか届かない構造の中でも、意味が止まる区間を1つ減らせます。作る側の手間は、案内文の末尾に1行足すだけです。これまでの案内文が期限と対象者を伝えるものだったとすれば、変わるのは、店長が誰に何を言えばよいかまで書いてある点になります。

受講日を決める前に、学んだ言い方を試す場面を店舗でひとつ選んでおきます。早朝の品出し中に手順を伝える場面のように、頻度が高くて短いやり取りを選ぶと、シフトを組み替えずに実行できます。必要なのは、店長が朝礼の前に1つ決めるだけの時間です。増えるのは決める手間で、減るのは、受講後に何をすればよいか分からないまま終わる時間になります。

戻ってきた翌日の3分の振り返り

受講から数日以内に、店長が「あの場面でどう言ったか」を3分ほど聞く時間を、朝礼の後に置きます。扱うのは、うまくいったかどうかではなく、選んだ言葉そのものです。人格や姿勢の評価に触れないことが、次に相談が上がるかどうかを分けます。

言葉に限って扱う理由は、先ほどの調査にもあります。周囲からの働きかけで学ぶ気持ちが下がることがあると報告されている以上、振り返りの場が評価の場に変わると、せっかく渡した意味はそこで止まってしまいます。3分という長さも、店舗の朝の流れを止めない範囲として選んでいます。渡す側と受け止める側の2区間が埋まると、店舗の中で起きたことが翌日に言葉として残るようになります。

関係が変わった店舗で起きること

翌日の3分を数回続けた店舗では、朝礼の後の景色が少しずつ変わります。新人が前日の出来事を口にする日が出てきて、店長はその場で言い方を一緒に考えられます。

受講の前後に短い会話が挟まると、店舗で起きた出来事が翌日に店長へ届くようになり、早朝の品出しのような場面が誰にも共有されないまま終わることは減っていきます。人事の手元へ返ってくるものも変わります。受講率の数字ではなく、どの店舗でどんな言い方に迷ったかという具体が上がってくるからです。必須化と督促では届かなかった受講後の実践に、初めて手がかりが生まれる状態だといえます。

この受け渡しが回り始めると、次の段階も視野に入ります。店舗から上がってきた迷いの場面を集めて、翌年の研修で扱う題材そのものを店舗の言葉で作り直す、という可能性が広がります。

前半で置いた事情のいくつかも、この設計で動かせます。加盟店へ施策が依頼の形でしか届かないという事情は、渡す相手を店長に絞り、店長がそのまま使える問いを渡す形にすることで手が届きます。店長が接客に追われて研修の狙いを翻訳する余白がないという事情についても、翻訳の作業を人事側で済ませておけば、店長の負担を増やさずに済みます。

残るのは、店長自身の練習の場です。渡す一言も、翌日の3分も、言葉を選ぶ力に支えられていますが、その練習を人前で行える場所は店舗にはありません。

一人で練習できる場を用意するAIビジネストレーニング

店長が言葉を選ぶ練習をどこで積むのか。これまで使われてきた手段を並べると、いずれもこの一点で届きにくいことが見えてきます。

集合研修は日程と会場を揃える必要があり、シフト制の店舗では受講機会に差が出ます。現場での実地指導は店長の余白に依存します。実際、現場での実地指導がうまくいっていると答えた企業はごく一部にとどまるという調査結果も報告されています(*3)。企業に尋ねた調査にもとづく集計です。eラーニングは知識の確認までは進みますが、言い方を選ぶ練習の反復には向きません。

その隙間を埋める形で置けるのが、AIとの対話による練習です。株式会社アーテリジェンスが提供する AIビジネストレーニング ミチビカは、ケースストーリーを読んだうえで、AIロールプレイやアセスメントで実際に言葉を発し、その場で助言を受ける形の練習ができるサービスです。早朝の品出しで新人に手順を伝える場面のように、人を相手にしては再現しにくく、周囲に人がいるほど試しにくいやり取りを、一人で何度でも練習できます。加えて、加盟店を含めて同じ内容を同じ期限で回せるため、店舗ごとに受講機会が偏るという事情にも対応しやすくなります。

当社が受講半年後に受講者の上司へ行ったアンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%を超えていました。自己申告ではなく、上司による他者評価です。

リーダー向け実践コースの受講者満足度は、5点満点で4.4〜4.6点でした。受講後アンケートの平均で、店長のように現場を抱える層にも受け入れられやすいことがうかがえます。いずれも今回の業種に限った数値ではなく、全体の集計です。

一方で、静かな環境と一定の受講人数が必要になります。店舗のバックヤードでの受講を前提にせず、同じ時期に受講する集団ごとに期限を設計し、受講状況が一覧で見える画面で進み具合を確かめられるようにすれば、店長が枠を確保しやすくなります。店舗数やシフトの事情に応じて、規模に合わせた組み方も調整できます。全社員向けの定額版コンプライアンス研修には「パワーハラスメント防止と適切な指導基礎」があり、受講率は上がったのに店舗の言動が変わらないと感じている人事部が、検討の入り口として相談しやすい内容です。どのコースを選ぶにしても、効いてくるのは案内に添える一言と翌日の3分をどこに置くかという設計のほうです。受講率は上がったのに店舗の言葉が変わらないという段階にある方は、受け渡しの設計と練習の場をどう組み合わせるか、貴社の店舗体制に合わせてご相談いただけます。資料請求・個別相談も承っています。

明日の案内文に一言を添えるところから

練習の場まで用意できると、受け渡しの設計は続けられる形になります。ここまでを短くたどり直すと、効いた見方は1つだけでした。受講者を1人で見る代わりに、その前後に立つ人を数える。それだけで、手を入れる場所が案内文と翌日の朝礼へ移ります。手元に残るのは、受講案内に添える一言と、試す場面をひとつ選ぶという決め方、そして翌日に交わした3分の会話の記録です。どれも次の実施週からそのまま使えます。

本部人事の育成担当者は、次の実施週の案内文に、店長がそのまま口に出せる問いを1つ添えて送りました。店長は早朝の品出しの場面を試す場面に選び、翌日、新人とパート従業員のそれぞれから何をどう言ったかを聞き取りました。その内容は日報に残り、加盟店を巡回する本部の担当者へ共有されます。人事の手元に返ってきたのは、受講率ではなく、その店で迷った言い方でした。

毎年の実施週を回してきた手間は、それ自体が全店へ届けるための土台になっています。次の案内文を送る前に、この人に受けてほしい理由を一言だけ書き足すところから始められます。ぜひこの記事でご紹介した進め方は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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