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社会インフラの現場でハラスメント防止の効果を報告の中身から読み解く

業界別活用法28
著者: アーテリジェンス編集部
社会インフラの現場でハラスメント防止の効果を報告の中身から読み解くの内容を表すビジネス研修のイメージ

最終更新日:2026年8月13日

人材育成の現場ではここ数年、知識を届けられたかどうかよりも、その先で職場の何が変わったのかを問う視線が強まっています。社会インフラを担う企業では、設備や手順の安全対策と並んで、働く人が安心して意見や気づきを口に出せる状態そのものが、事業を続けるための条件として扱われるようになりました。人事部はその状態をつくる手段として、ハラスメント防止をはじめとする職場づくりの教育を全社に広げてきています。

その結果、受講率も満足度も高い水準で報告できる状態は整ってきました。ところが、その研修で職場の何が変わったのかを問われると、答えに詰まる人事部が増えています。数字が揃うほど、次にどの施策を続けてどれを組み替えるかの判断は、かえって難しくなっていきます。全社の教育を企画し、役員に成果を説明する立場にある人事・人材育成の担当者にとって、この行き詰まりは予算の話とも直結する問題です。それでは、職場づくりの教育の効果をどこで確かめられるのか、現場に毎日残る記録という観点から探っていきましょう。

この記事の要点

  • 満足度と受講率は施策の実施を確かめる数字であり、職場づくりの教育が何を変えたかを説明する数字ではない。
  • 研修ごとに何を確かめたいのかを決めないまま数字を集めると、目的の違う研修が同じ尺度で並び、判断材料にならない。
  • 効果を確かめる手がかりは新しく作る指標の中ではなく、社会インフラの現場が毎日残している記録の中にある。

高い受講率と満足度の先で止まる職場づくりの判断

数字が揃うほど判断が遠のくという状態は、どの職場で、どんな形をとって現れるのでしょうか。ここでは、鉄道事業を営む会社の人材開発担当課長を想定して、報告資料が整っていく過程と、その裏で現場に残るものを順に見ていきます。運転士、駅係員、保守担当、管理職と、受講対象が職種と拠点で幾重にも分かれているところがこの職場の前提になります。

全社一斉の受講と満足度で整う報告資料

担当課長は、運転士も駅係員も保守担当も管理職も同じアンケート用紙で満足度を取り、受講人数と平均点を並べて役員に報告しています。全職種を同じ形式で集計すれば、全社の実施状況を1枚で示せます。対象者ごとに設問を変える手間もかかりません。現場の負荷から見ても、この選び方は自然な判断です。同じ形で報告をまとめている会社は珍しくありません。

例えば、夜の乗務を終えた運転士が点呼に立ちます。点呼は、乗務の前後に当日の体調や運行上の申し送りを口頭で確認し記録する場です。運転士は「今日は普段と違う感じがした」と言いかけて飲み込みます。確認する対象を指で差し、声に出して安全を確かめる指差喚呼が抜けかけたことも、当直責任者に伝えないまま引き継ぎを終えました。

点呼と当直の引き継ぎは、乗務や駅務が始まる前と終わったあとに必ず通る場です。体調や運行上の気づきがそこで口に出されなければ、その日の情報は誰にも渡らないまま終わります。研修で扱ったはずの「気づいたことを口に出す」行動は、報告資料の数字のどこにも現れないまま、現場に残り続けます。

数字が高いのに現場の沈黙が残る理由

満足度の側に検証が寄る形は、この会社だけに起きていることなのでしょうか。国内企業を対象にした調査では、研修効果の検証内容として満足度を挙げた企業が61.6%にのぼると報告されています(*1)。この調査は業種を限定せず、企業の人材開発の担当者に検証の実態を尋ねたものです。

一方で、職場での行動や態度の変化を検証しているとの回答は45.5%でした。学習の到達度を挙げた企業は半数を超えるものの、成果の創出や業務推進の程度まで見ている企業は半数を下回っています。そこから、実施を確かめる数字は集まりやすく、職場の変化を確かめる数字は集まりにくいという偏りが、業種を問わず起きていると読み取れます。

では、指標の数を増やせばこの偏りは解けるのでしょうか。行き詰まりの起点は指標の数が足りないことではなく、その研修が何を確かめるための施策なのかを決めないまま数字を集めているところにあるのかもしれません。確かめたいことが決まっていないと、集めた数字は高いか低いかしか語りません。運転士向けの安全に直結する教育と、管理職向けの指導の教育が、同じ平均点で並びます。並んだところで、どちらを続けてどちらを組み替えるかの判断には使えないままです。

研修の効果は新しい指標ではなくどこに現れるのか

確かめたいことが決まらないまま数字だけが積み上がるとき、足りないのは調査の本数ではなく、どこを見るかの決め方なのかもしれません。ここからは、効果がすでに現れている場所を、現場の記録の側から探していきます。

鉄道の職場には、毎日残されていく記録があります。ヒヤリ報告、点呼の記録、当直の引き継ぎメモです。ヒヤリ報告は、事故には至らなかったが危ないと感じた出来事を書いて共有する記録を指します。研修の効果を確かめるために新しい調査を足すのではなく、これらの記録の中身の変化を効果の手がかりとして読み直す焦点の当て方を、この記事では記録の読み替えと呼ぶことにします。安全に直結する職場では、風通しの状態はすでに毎日の業務記録に現れていて、人事が知りたいことの多くはそこに書かれているとも考えられます。効果測定を、指標を増やす作業ではなく、どの記録のどこを読むかを研修の設計時に決める作業として捉え直してみると、どうでしょうか。網羅的な測定体系を組み上げるのではなく、判断に使う情報を1つずつ選び直す整理として受け取っていただけたらと思います。

この見方で、点呼で運転士が違和感を飲み込んだ出来事を眺め直してみます。その出来事はアンケートには一切現れませんが、当直の引き継ぎメモに何も書かれなかったという事実として、すでに記録されています。研修の前後で同じ記録を読み比べれば、報告の件数が増えたかではなく、書かれ方が具体的になったか、口に出された言葉が残るようになったかという変化として、効果が見えてきます。

一般的な効果測定の議論は、指標の分類と枠組みの整理に向かいます。この見方が使えるのは、交代制で全員を同じ日に集められない鉄道の職場でも、すでにある記録を読むだけなので追加の負荷がほとんどかからない場面です。報告の件数を増やす運動になりがちなときも、件数と書かれ方のどちらを見るかを先に選んでおけば、判断が割れたときに立ち返る場所ができます。ドナルド・カークパトリックが1959年に示した反応・学習・行動・結果の4つの段階の考え方とは、行動と結果の段階を業務の現場側で確かめるという点で重なります。

学習評価の実態をまとめた海外の報告では、反応の段階を測っている割合が83%とされています(*2)。人材開発に携わる組織に対して、評価をどの段階まで実施しているかを尋ねたものです。学習の段階も、それに近い水準にあります。

一方、行動の段階まで測っている割合は54%にとどまり、結果の段階はさらに下がると報告されています。研修後の職場の変化を測る難しさは、日本の鉄道業に限った話ではなく、海外の人材開発の現場でも共通していると読み取れます。

確かめたい問いを先に決めて日々の記録を読み替える

どの記録のどこを読むかを決めるといっても、実際の企画はどこから手をつけられるでしょうか。ここからは、研修の設計から現場での練習までを、順に降ろしていきます。

研修を設計する時点で確かめたい問いを1つに決める

研修を企画する段階で、この研修が終わったあとに現場のどの記録のどこが変わるはずかを、1つだけ言葉にしておきます。運転士向けの職場づくりの教育なら「点呼で違和感が具体的に口に出される」、管理職向けなら「報告を受けた側の返し方が引き継ぎメモに残る」といった形です。研修ごとに違う問いを持たせると、同じ尺度で比べる必要がなくなります。それぞれの研修が何を確かめる施策なのかも、企画書の1行で伝わるようになります。

決めた問いに対応する記録を、研修の前後で同じ観点から読む人を、職場側に1人決めておきます。当直責任者や職場のキーパーソンに渡すのは、報告の件数ではなく、いつ・どこで・何が普段と違ったかが書かれているかという観点だけです。渡す観点をここまで絞れば、読む負荷は数分で収まります。

言いにくかった場面を持ち寄って口に出す

研修の場では、実際に言いかけてやめた場面を各自が持ち寄ります。そのうえで、その一言を声に出して言い直すところまで行います。点呼で飲み込まれた「今日は普段と違う感じがした」という一言も、研修の場でなら言い直せます。何時ごろの、どの区間で、何が普段と違ったのか。そこまで言葉にして口に出す練習を、実際の点呼の相手を思い浮かべながら重ねていきます。

研修の中で言葉にできた表現は、そのまま点呼や報告に残る言葉になります。集合形式で知識を確認して終える進め方と比べると、効果を記録の側から確かめられるところが違いになります。手間の面でも、新しい調査票を作る作業は増えず、代わりに研修の時間のうち何割かが知識の確認から言い直しの練習へ移る形になります。

事例をもとに考える学習方法については、講義形式に比べて理解と応用の面で高い結果を示したと報告されています(*3)。多くの研究を集めて集計した分析によるものです。条文や禁止事項の確認ではなく、判断に迷う場面を扱う設計にこそ根拠があると読み取れます。

報告の中身が変わると育成の判断も変わる

問いを決め、記録を読む人を置き、言いにくかった一言を口に出す。この3つが現場で回り始めた先を、数か月の時間をとって眺めてみます。

満足度の平均点をどれだけ丁寧に集めても届かなかったのは、現場で言いにくいことが言えるようになったかという一点でした。問いを決めて記録を読む運用を続けると、点呼で運転士が口にする言葉が「なんとなく気になった」から「何時ごろのどの区間で普段と違う感じがした」へ変わっていく可能性があります。当直責任者の受け止め方も、引き継ぎメモに残るようになります。

人事の側は、受講人数と平均点ではなく、研修の前後で報告の書かれ方がどう変わったかという形で教育効果の可視化を進められます。満足度だけでは説明できなかった行動変容を、現場の記録を根拠に語れるという視点が開けるでしょう。予算配分の議論も、印象と前年踏襲から、どの施策がどの問いに答えたのかという根拠へ移っていく可能性があります。

報告の書かれ方を読む習慣が定着したら、次は報告を受けた側の返し方を扱う管理職向けの設計に進めます。安全に関する気づきの共有と、指導や相談の受け止め方が、同じ職場の同じ記録の上でつながっていくという広がりも考えられます。

職種と資格ごとに研修が分かれていて同じ尺度で比べられない、という事情もありました。研修ごとに確かめたい問いを変えれば、無理に横並びにする必要はなくなります。運転士向けと管理職向けを、別々の問いに答える施策として並べる。そうすると、比較ではなく組み合わせで全体の状態を語れます。

シフトが揃わない職場で反復と記録を両立させる手段

記録に現れる変化を支えているのは、言いにくかった一言を繰り返し口に出す練習です。この練習を、泊まり勤務を含む交代制の職場で全員に届けるには、何が要るのでしょうか。

集合研修は議論や合意形成に向きます。ただ、泊まり勤務を含む交代制の職場では同じ日に集まれず、言い方を口に出す練習を全員が同じ回数だけ経験するところまでは届きにくくなります。eラーニングは受講のタイミングを選べる代わりに、履修の完了は分かっても、何をどう言えるようになったかは残りません。

株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニングのミチビカは、AIとの対話を通じて人が話す力そのものを練習する仕組みです。実際に起きうる場面を読んだうえで、言いかけてやめた一言をAIロールプレイで何度でも言い直せます。人を相手にすると再現しにくい、立場が下の者が上位者に言いにくいことを伝える場面も、周囲の目を気にせず反復できます。

泊まり明けや非番でも各自のタイミングで受講でき、話した内容と評価が記録として残ります。シフトが揃わず受講も観察もばらつくという事情に対して、人事は誰が何を言えるようになったかを進捗の画面から確かめられます。

当社が受講半年後に受講者の上司へ行った追跡アンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%を超えていました。受講者本人の自己申告ではなく上司による他者評価で、対象は当社研修全体の集計です。職場づくりの教育に当てはめれば、研修で口に出した言い回しが現場の報告や点呼に現れているかを、上司の側から確かめる運用に広げられる可能性があります。

対話の練習では音声を扱うため、静かな受講環境が要ります。個室ブースや自宅からの受講に対応でき、既存の社内研修資料や安全教育の教材を取り込んだカスタマイズも設計の範囲で行えます。全社員向けの定額版コンプライアンス研修には「パワーハラスメント防止と適切な指導基礎」などのコースがあり、職種ごとに確かめたい問いが分かれていて全体をどう組み替えるか迷っている人事部に向いています。職種ごとに確かめたい問いを整理するところから、貴社の職場づくり研修の設計と効果の見方をご相談いただけますので、資料のご請求と個別のご相談を受け付けています。

明日の点呼から確かめられること

ここまで扱ってきたのは、ハラスメント防止をはじめとする職場づくりの教育の効果を、新しい指標ではなく現場がすでに残している記録の中身から確かめるという焦点の当て方でした。なかでも効いてくるのは、研修を設計する時点で確かめたい問いを1つに決める一手です。読み終えたあとに手元に残るのは、次の研修で確かめたい問い1つと、研修で練習した言い回し、そしてそれが現れるはずの記録の置き場所になります。

想定した人材開発担当課長は、次の研修の企画書に「点呼で違和感が具体的に口に出される」という一文を加えました。当直責任者には、報告の書かれ方だけを見てもらう運用を始めています。運転士は、練習で言い直した「何時ごろのどの区間で普段と違う感じがした」という言い方を点呼で使い、当直責任者はその内容を引き継ぎメモに残しました。人事は次の役員報告に、受講人数ではなく、引き継ぎメモに残った言葉の変化を持って行きました。

全社に教育を行き渡らせるところまで積み上げてきた仕事は、それ自体が現場の土台になっています。そのうえで、次に企画する研修の1行目に、この研修で現場のどの記録のどこが変わるはずかを書き足すところから始めてみてください。ぜひこの記事でご紹介した記録の読み替えや練習の進め方は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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