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建設不動産業でハラスメント防止の新施策が現場の言葉にならない理由

業界別活用法11
著者: アーテリジェンス編集部
建設不動産業でハラスメント防止の新施策が現場の言葉にならない理由の内容を表すビジネス研修のイメージ

# 建設不動産業でハラスメント防止の新施策が現場の言葉にならない理由

最終更新日:2026年9月12日

建設不動産業でも、人材にどう投資しているかを社外に説明する場面が増えました。育成の方針は以前より丁寧に文章化され、整った言葉のまま外へ出ていきます。一方で、その方針が社内でどう受け取られたかを確かめる手立ては、参加人数と受講後のアンケートにとどまりやすいところがあります。

ハラスメント防止を中心としたルール遵守の教育に加えて、一人ひとりが尊重され安心して働ける職場づくりへと方針を広げる会社が増えています。方針を広げる側に立つ人事・人材育成の担当者にとって、悩ましいのはその次の場面かもしれません。新しい方針ほど、案内は全員に届いているのに、受け取り方が部署ごとに分かれていくからです。ある部署では守るべき決まりが増えた話として読まれ、別の部署では自分たちの仕事から遠い話として受け取られます。同じ文面を配っているはずなのに、なぜ受け取り方はこれほど分かれるのでしょうか。それでは、新しい施策が現場の言葉になりにくい事情について、浸透をどう捉えるかという観点から見ていきましょう。

この記事の要点

  • 参加人数と承認が揃っても、建設不動産業のように専門領域が分かれる組織では、施策に見いだされる意味まで揃うとは限らない。
  • 同じ案内が案件ごとに別の意味で読まれる状態は、告知の回数を増やしても変わらない。
  • 浸透の見方を、届いた範囲から、自分の職場の言葉で施策を語れる人がどこにいるかへ広げると、次に手をつける場所が具体的に見えてくる。

参加人数は集まっても施策の意味は揃わない

受け取り方の分かれは、案件が立て込む時期にはっきりした形で現れます。大規模再開発が佳境に入り、工程の調整だけで一日が終わるような時期に、人事は専門領域を横断した必須参加を求めることになります。その分かれ方がどこから生まれるのかを、案件の成り立ちの側から見ていきます。

不動産開発では、1つの案件ごとに用地取得や企画の担当、設計、法務、資金調達、施工管理、そして工事を担う協力会社が集まり、数年から十数年かけて建物が引き渡される竣工まで進みます。所属部署は変わらないまま案件の顔ぶれだけが入れ替わるため、同じ社内でも判断の前提が案件単位で異なります。

一斉告知と必須参加で満たされるのは人事側の手応え

例えば、オフィスや物流施設といった用途の開発を手がける会社で、ハラスメント防止を軸にした教育から職場づくりへ方針を広げる取り組みが始まったとします。経営には投資の意義を説明し、承認を得ます。その資料をそのまま受講者向けの案内に転用し、社内ポータルと一斉メールで告知し、人数が集まらなければ募集期間を延ばすか、必須参加に切り替えます。承認と参加人数という目に見える結果がその場で揃うため、忙しい時期ほど自然な選択になります。

督促は、案件の定例会議を仕切る開発の案件責任者に回ります。工程調整の合間に受講の呼びかけまで担うことになり、参加はそこで、職場づくりの取り組みではなく工期を圧迫する本社からの要請として伝わっていきます。人数は揃っても、意味は揃わない。督促を受けた側の目に、この取り組みはどう映っているでしょうか。

同じ資料が案件ごとに別の意味で読まれる

同じ案内を読んでいるのに、なぜこれほど違う話になるのでしょうか。ここで効いているのは、施策の意味を人事が配る説明の側だけで作ろうとしていることです。案件ごとに関心も前提も異なる受け手の側で、意味が立ち上がる過程が設計に入っていないところから始まっているのかもしれません。その結果、法務が読む「守るべき基準」と施工管理が読む「現場を止める話」が、同じ案内から同時に生まれます。

募集期間を延ばし、必須参加に切り替えるたびに揃っていくのは名簿の行数です。意味の分かれ方のほうは手つかずのまま次の案件へ持ち越され、新しいことを提案しても現場に根づかないという結論だけが社内に残りやすくなります。人事の手元には、そのずれを測る道具がありません。

知っている状態と、それを自分の言葉で言える状態は、同じではありません。上場企業に勤める人を対象にした調査では、経営理念や行動指針の内容を理解しているという回答が54.3%だったと報告されています(*1)。対象は上場企業に勤める人で、建設不動産業に絞った調査ではありません。

一方で、その内容を新入社員に説明できるという回答は40.2%にとどまったという結果も出ています。そこから、内容を知っている人の数と、それを自分の言葉で他人に渡せる人の数は別に動くと読み取れます。参加人数が揃ったという事実は、意味が揃ったことまでは教えてくれません。

浸透を測る物差しを説明できる人の広がりに置く

受け手の側で意味が立ち上がる過程が抜けているのだとすれば、手を入れる先は案内文ではなく、浸透の測り方のほうかもしれません。ここからは、参加人数と並べて持てるもう1本の物差しを考えてみます。

施策の狙いを、自分の案件の言葉で他人に説明できる人が、組織のどこに何人いるか。この数え方を、この記事では説明できる人の広がりと呼ぶことにします。案内が届いた範囲ではなく、語れる人が立っている場所で浸透を捉える見方です。人事が説明の巧拙を磨く方向へ進むのではなく、社内のどこに語れる人がいるかへ焦点を移す構えだと考えてみるとどうでしょう。案内文を何度書き直しても届かなかった場所が、この数え方だと位置として見えてきます。浸透を測る唯一の方法としてではなく、参加人数と並べて持つもう1本の物差しとして使う形になります。

受講者名簿を眺めているかぎり、対象者はほぼ受講済みという一行しか見えません。同じ案件をこの見方で眺め直すと、法務には施策を自分の言葉で語れる人がいるのに、施工管理と設計の側には一人もいないという偏りとして見えてきます。督促が回っていた案件の定例会議の場面に戻ると、そこで語られていたのは工期の話だけだった、という見当もつきます。次に働きかける相手が、部署単位ではなく案件の中の職能単位で決まります。

不動産開発は案件ごとに顔ぶれが変わり、同じ会社の中でも用地取得、設計、金融、施工管理で判断の前提が違います。全社一律の到達率は、会社としての進み具合を示すには向いていますが、職能ごとの空白は最後まで映りません。説明できる人の広がりは、その空白がどこにあるかを名前のレベルで言えるところまで具体化してくれます。手元の受講者名簿にこの見方を当ててみると、次に声をかける相手が変わってくるかもしれません。

組織心理学者のTasha Eurichが示した自己認識の研究では、自分は分かっていると感じている状態と、他者から見て実際に分かっている状態との間に隔たりがあるとされます。分かったつもりと説明できる状態を分けて見る点が、この見方と重なります。

案件の言葉に置き換える場を現場につくる

職能ごとの空白が見えてくると、次に決まるのはどこから埋めるかです。説明する人を案件の中に立てるまでの運び方を見ていきます。

最初に語る人を案件の中から選ぶ

人事が説明する番を、案件の中で信頼されている責任者や中堅に手渡します。渡す前に、人事はその人から30分ほど話を聞き、自分が過去に言い出しにくかった場面を1つ選んでもらいます。一斉告知との違いは、語られる材料が案件の中から出てくるところにあります。人事の作業は、資料をつくることから、相手の記憶を一緒に探すことへ変わります。手元で増える手間は、この30分の聞き取りが中心です。

問いは立場ごとに変えます。経営には「この案件でどの判断の遅れが減るか」を、受講する人には「次の案件の定例会議で言い出しにくい話が出たときにどう扱うか」を投げると、同じ施策が別々の関心のまま結びつきます。全員に同じ一文を配るより、関心の違いをそのまま残すほうが、語る側も話しやすくなります。

言葉になったかを短い場で確かめる

では、その場で何を話してもらうのでしょうか。案件の定例会議の冒頭5分を借り、受講した人が自分の言葉で1つだけ話す時間を置きます。人事はその場に出席せず、後日その案件の責任者から一言もらうだけにします。そうすると、本社の監視ではなく案件の運営として続きます。新しい会議を立てないので、人事にかかる時間は聞き取りと後日の確認に収まります。

自分の案件の場面を選んでもらう手順には、裏づけがあります。実際に起こりうる場面を題材に考える学び方は、説明を聞く形よりも応用が利きやすいと報告されています(*3)。医療や保健の分野の教育を対象にまとめられた報告です。そこから、借りてきた事例よりも、自分が居合わせた場面のほうが言葉として残りやすいと読み取れます。手元の案件で最初の5分を渡せる人を1人だけ決めるところから、始められます。

説明できる人が増えたときに変わること

聞き取りから問いの置き換え、案件の定例会議での5分まで、この3つを一巡させた案件では、施策の扱われ方が少しずつ動きます。職能ごとに語れる人が1人ずつ立つと、職場づくりの取り組みは本社の要請ではなく案件の進め方の一部として扱われ始めます。協力会社も同席する定例会議で、若手が設計変更への懸念を口に出すまでの時間が短くなり、共有の遅れから生じていた手戻りに手前で気づける可能性が広がります。

告知の回数と必須参加では届かなかったのは、受講が終わった後の日常の場面でした。安心して懸念を口にできる状態、つまり違和感や反対意見を言っても不利益を受けにくい職場の土台は、案内文よりもこうした場面の積み重ねから育っていくという見方もできます。名簿の上では何も変わらなくても、案件の中では変化が先に出ます。

次の案件が立ち上がるときのキックオフに同じ形の短い語りの場を持ち込めば、別の施策を伝えるときの説明の手間も下がっていくでしょう。人材への投資と成果を経営の文脈で説明する考え方である人的資本経営の文脈でも、社外に示す材料を、参加率だけでなく現場での使われ方として差し出せるようになります。

案件を動かす人が席を外す負担が大きく、同じ日程で集まれないという事情は、集合の日程ではなく既にある定例会議の5分に乗せるかぎり生じません。工期が優先されて育成が後回しになる事情についても、新しい時間を作らず会議体の中に置く形であれば、繁忙期を越えて続けやすくなります。

日程を揃えずに言葉にする練習を重ねる手段

定例会議の冒頭5分で自分の言葉を話すには、その5分を支えるだけの練習がどこかで要ります。では、その練習量はどこで積むのでしょうか。集合研修は、その場で議論を交わす学び方としては強い形です。ただ、案件が動いている時期に多職種の日程を揃えるのは簡単ではありません。eラーニングは受けやすい代わりに、自分の言葉で話す練習が入りにくいところがあります。

OJTは指導する人の力量に左右されます。正社員に対して仕事を離れて行う研修について、実施機関が自社であるという回答が76.4%を占めると報告されています(*2)。正社員への研修に関する回答をまとめたものです。社内資料と社内講師に運用が寄りやすい状況では、話す練習を足す場所そのものが見つけにくくなります。

その一言を支える練習を、案件の合間に何度でも試せるようにする手段があります。株式会社アーテリジェンスが提供するAIビジネストレーニング「ミチビカ」は、実際に起こりうる場面を読んだうえで、AIロールプレイや発話の形で答え、その場で改善点の返しを受ける流れで進みます。定例会議で言い出しにくい話をどう切り出すかを、人目のないところで繰り返せます。受講は、同じ期間を一緒に進むグループの単位で期間を区切りながら、各自の都合に合わせて進められます。同じ日程で多職種を集められないという事情にも噛み合う形です。

当社が受講から6か月後に受講者の上司へ行った追跡アンケートでは、行動変容が見られたとの回答が83%を超えていました。業種を横断して集計した数字であり、建設不動産業に限ったものではありません。

リーダー向け実践コースの受講者満足度は、5点満点で4.4から4.6点でした。案件を率いる管理職層にも受け入れられる可能性があります。

発話を伴うため、静かな受講環境が要ります。自社の案件で起きた場面をケースストーリーに作り替えるカスタマイズに対応しているので、在宅や個室からの受講を織り込んだ設計にできます。ルール遵守の教育から職場づくりへ方針を広げたい段階であれば、全社員向けの定額プランにあるパワーハラスメント防止と適切な指導の基礎コースが、出発点として検討しやすいでしょう。どの手段を選ぶにせよ、戻る先は案件の定例会議の5分をどう支えるかという実務です。自社の案件で起きた場面をそのまま題材にできるかを含めて、まずは体験コースと導入の進め方をご相談ください。

次の定例で最初に語る人を決める

練習の場を用意できたなら、あとは誰に最初の5分を渡すかという話になります。ここまでで効いた見方は1つでした。浸透を人数ではなく、自分の案件の言葉で語れる人がどこにいるかで見ること。手元に残るのは、案件の職能ごとに語れる人がいるかどうかを書き出した1枚と、定例会議の冒頭5分という置き場所です。ハラスメント防止の取り組みを広げるときも、次に働きかける相手はこの2つから決まります。

人材開発担当者は、次の再開発案件のキックオフに合わせて最初に語る人を決め、その人から30分かけて過去の場面を1つ引き出しました。案件の定例会議では、協力会社も同席する場で若手が設計変更への懸念を口にしました。開発の案件責任者はその場で事実を確認し、決定の経緯を議事に残して、判断できる立場の人へ引き継ぎました。人事は出席していません。後日その1件だけを聞き取り、次にどの職能へ働きかけるかを決めました。

案内を何度も書き直してきた手間は、こうして少しずつ現場の言葉に置き換わっていきます。明日の定例会議の冒頭5分を誰に渡すかを決めるところから、施策は現場の言葉になり始めます。ぜひ、この記事でご紹介した進め方を人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

参考にした調査・資料

監修:株式会社アーテリジェンス

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