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小売業のEC顧客対応をマニュアル整備ではなく判断の練習で組み直す

業界別活用法26
小売業のEC顧客対応をマニュアル整備ではなく判断の練習で組み直すの内容を表すビジネス研修のイメージ

最終更新日:2025年8月1日

EC・通販を主力とする小売業では、顧客が企業に触れる場面のほとんどが、問い合わせ窓口でのやり取りに集まっています。商品を選ぶところまでは画面の中で完結し、人の声や文章に触れるのは、注文の確認や返品の相談で連絡を入れたときです。店頭での接客に当たるものが、そのまま電話とメールとチャットの応対になっている、と言い換えてもいいかもしれません。そこでの受け答えが、そのまま企業の評価として顧客の側に残ります。人的資本を経営の要と位置づける流れのなかで、顧客対応を担う人材の育成は、コストではなく事業の土台を支える投資として説明を求められるようにもなってきました。問い合わせ窓口の応対品質と人の定着を任されている人事・人材育成の担当者にとって、この説明は年々重くなっているところです。それでは、EC・通販の顧客対応をどう育てるのかについて、現場の判断という観点から探っていきましょう。

この記事の要点

  • EC・通販の小売業では、応対の品質差が顧客からの再度の問い合わせという形ではっきり表に出る。
  • マニュアルの整備とeラーニングの受講だけでは、答えが一つに決まらない場面での判断は担当者任せのまま残る。
  • 育成の対象を応対の全体から迷いが生じる場面へ絞ると、繁忙期でも積める練習の形が見えてくる。

セール明けの問い合わせ窓口で起きていること

例えば、EC・通販を主力とする小売業で、自社が運営する問い合わせ窓口に120名ほどが在籍している企業を考えてみます。その半数近くは短時間勤務や派遣で、勤務は交代制です。大型セールと年末に問い合わせが集中する一方、全員が同じ時間に席を離れられる日はほとんどありません。この窓口には、注文の確認から出荷状況の照会、返品や交換、定期購入の変更や解約までが同じ担当者に届きます。店頭であれば売場と後方に分かれている役割が、一本の電話やメールにまとまって来る形です。

大型セール後の一週間。配送の遅れと欠品についての問い合わせが重なります。一次対応の担当者の画面には出荷状況が出てこないため、「確認して折り返します」を繰り返すことになります。折り返しの前に不安になった顧客から連絡が入り、同じ顧客からの再度の問い合わせが積み上がっていきます。窓口が混み合うほど折り返しは遅れ、遅れるほど問い合わせが増える。この一週間は、そういう時間の使われ方をします。

同じ週、定期購入の解約でも迷いが生まれます。休止や間隔の変更を案内してから手続きに進むのか、申し出のとおりそのまま解約を受けるのか。その線引きが担当者によって割れ、同じ理由の申し出に違う答えが返っていきます。応対を聞いているリーダーの目には、どちらが正しいとも言い切れない場面が並んで映ります。

人材開発を担う人事のもとには、繁忙期のたびに応対品質へのクレームと再度の問い合わせの増加が、報告として上がってきます。育成が要ることは社内で共有されているのに、120名を同じ場に集める日程はどう組んでも出てきません。実施できる形が見つからないうちに、次の繁忙期の予定が近づいてきます。

そこで人事が選ぶのは、応対マニュアルとよくある質問集を改訂し、受講必須のeラーニングを配信して、繁忙前の全員受講を求めることです。全員に同じ情報を短期間で届けられて、受講の記録も残ります。限られた時間のなかで打てる手としては、いちばん確実に形が残る選び方でした。

なぜマニュアルを厚くしても応対の差は縮まらないのか

確実に形が残るはずだった配信は、入電が集中する週にどう扱われるでしょうか。改訂されたマニュアルとeラーニングは、繁忙のさなかにはそのまま後ろ倒しになり、受講は入電が落ち着いた後にまとめて消化されます。読む量が増えた分だけ、経験の浅い担当者は答えを探す時間が延びます。そして判断は、その場にいる先輩に口頭で確認する形へ戻っていきます。窓口に増えたのは、答えを探す時間と、先輩に確認を頼む回数でした。

ここで、窓口の担当者に何が求められているのかを確かめておきます。企業に対して正社員以外の人材に求める能力を尋ねた国の能力開発に関する調査では、「コミュニケーション能力・説得力」が32.4%と上位に挙がったと報告されています。これは、企業の側に自社の期待を尋ねた設問の結果です。窓口の半数近くを短時間勤務や派遣が担う体制で、期待されているのは対話の力そのものだと読み取れます。

同じ設問では、「営業力・接客スキル」も31.5%で並んでいると報告されています。決まりを覚えていることではなく、相手の言い分を受けて話を着地させる力の側が求められている、という並びです。では、その力は、マニュアルの記述量を増やすことで伸びていくのでしょうか。

応対マニュアルが増やしているのは、返品の条件や解約の手続きといった、決まっていることの記述です。一方で担当者が詰まるのは、顧客の言い分を聞いたうえでどの選択肢を出すかという、決まっていない部分になります。解約の申し出に休止を提案するか、配送遅延のお詫びにどこまで代替を出すかは、覚えた情報からは一つに定まりません。セール明けの窓口で答えが割れていたのは、まさにこの決まっていない部分でした。繁忙期ごとに品質差が再発するのは、覚えた情報が足りないからなのでしょうか。差になっているのは、答えが一つに決まらない場面を通った経験の数のほうかもしれません。

応対を「判断の分かれ目」で切り分ける

通った経験の数が差になるのだとすれば、育成の対象は応対の流れ全体ではなく、その経験が積まれる箇所の側にあると考えてみるとどうでしょう。この記事では、顧客対応の育成を、答えが一つに決まらない箇所だけに絞ることを提案したいと思います。挨拶から本人確認、注文の照会まで応対の順番をひととおりなぞる形をやめて、迷いが生まれるところだけを取り出す整理です。

判断の分かれ目とは、顧客対応のうち答えが一つに決まらず担当者の選択に委ねられる場面のことで、EC・通販ではおおむね、確認が取れないまま何を伝えるか、規定の範囲でどこまで代替を出すか、続けたくない申し出にどの選択肢を並べるか、自分で決めずに上位者へ渡すのはどこか、の四つに集まります。この記事では、これを判断の分かれ目と呼ぶことにします。自社の問い合わせ記録を手元に置いて、担当者が詰まったやり取りをこの四つに割り振っていくと、どの分かれ目に迷いが集まっているかが見えてきます。育成の対象は、そこに限定します。

この見方に立つと、解約対応で答えが割れていたのは知識の差ではなく、休止や間隔変更を出す場面を何度通ったかの差だった、という読み方ができます。あわせて、全員に等しく必要な訓練量というものは存在しないことも見えてきます。ある担当者は解約の分かれ目を何度も通っていて、別の担当者は上位者へ渡す線引きを一度も自分で決めたことがない。担当者ごとにまだ通っていない分かれ目が違う、という前提から設計を組む形が考えられます。

分かれ目そのものを教材にすることには、学び方の面からの裏づけもあります。実際の事例をもとに考える学び方は、起きた出来事を題材にして、自分ならどう答えるかを考える形の学習を指します。この学び方について、講義型と比べて理解と応用の面で高い結果を示したと報告されている研究があります。多くの研究を集めて集計した分析によるものです。そこから、自社で起きた迷いの場面を教材の単位に置く進め方にも、一定の根拠があると読み取れます。

迷ったやり取りを取り出して短いケースに直す

まだ通っていない分かれ目が担当者ごとに違うのなら、配る材料も一律である必要はなくなります。では、その材料はどこから取り出せばよいのでしょうか。答えは、すでに手元にある問い合わせ記録の中にあります。

人材開発を担う担当者が、過去3か月の解約と遅延の問い合わせ記録を開き、担当者が回答に詰まった20件ほどを抜き出します。残すのは顧客の言い分と場面だけで、数行のケースに直します。「3回目の配送が遅れたので解約したい、と申し出があった」「欠品の連絡が届く前に商品が届かないと連絡が入った」。その程度の分量で足ります。窓口のリーダーは、そのケースを使って「この申し出にどう返すか」を担当者に短時間で答えさせ、出てきた答えの違いをその場で並べて共有します。作業としては記録の抜き出しとケース化だけなので、新しい教材を外から買う必要はありません。集合研修1回分の日程調整より短い準備で始められます。

繁忙カレンダーの隙間に練習を差し込む

ケースは1件あたり数分で扱えます。朝礼前や入電の谷間といった10分程度の隙間に差し込めるので、交代勤務で全員が揃わなくても順に回していけます。全員に同じ量を課すのではなく、まだ通っていない分かれ目のケースから配ると、限られた時間を差が大きい箇所に寄せられます。

練習が効いたかどうかを何で確かめるかも、あわせて決めておきたいところです。顧客対応の窓口満足度を調べた調査では、満足度が「回答内容の適切さ」25%などいくつかの要素で構成されると報告されています。EC・通販業界を対象にした調査で、説明・応対の丁寧さや、解決までにかかる時間も近い重みで並んでいます。そこから、社内の受講記録ではなく、こうした顧客側の見え方に近い指標を研修効果測定の手がかりに置けると読み取れます。

1日10分でも、繁忙期の一週間なら分かれ目を通る回数は積み上がります。セール前の二週間で、解約の分かれ目を10回通った担当者と、一度も通っていない担当者の差は、応対の迷いの長さとして窓口に表れてくるはずです。

交代勤務の窓口で反復練習を成立させる手段

隙間に差し込む形が見えてくると、次はそれを何で回すのかという問いに移ります。ここで、これまで使ってきた手段が何を担ってきたのかを並べておきます。集合研修は、答えの違いをその場で突き合わせられる点で分かれ目の練習に向いています。ただ、120名の交代勤務では日程そのものが組めません。eラーニングは全員に同じ情報を確実に届けられる一方、答えが一つに決まらない場面を試す機会にはなりにくいところがあります。現場での指導は実地にいちばん近い形ですが、指導できる先輩の数と忙しさに左右され、繁忙期ほど手が回らなくなります。

切り出した解約や遅延のケースは、AIを相手にした応対の練習、いわゆるAIロールプレイに載せると、相手役を確保せずに何度でも同じ場面を通せます。ミチビカは、株式会社アーテリジェンスが提供する、AIとの対話でビジネススキルを練習するAIビジネストレーニングです。ケースを読んでから実際に応対を試し、その場で振り返りと助言を受ける流れで進みます。幅広い業種の大手企業で導入されている形式でもあります。

全員が同じ時間に席を離れられないという制約は、受講のタイミングを各自が選べる形にすると回りやすくなります。繁忙期に受講が後ろ倒しになる問題についても、期間を区切ったグループ単位の運用と進捗の見える化によって、繁忙の前後の短い期間に寄せる形が取れます。

ミチビカでは、受講半年後に受講者の上司へ行った追跡アンケートで、行動の変化が見られたとの回答が83%を超えています。受講者本人の自己申告ではなく上司による他者評価で、業種を限定しない全体の集計です(当社調べ)。研修で学んだことが窓口で再現されるかという学習定着の面を、上司の側から確かめている形になります。顧客対応のように答えが割れる場面を扱う練習でも、対話の力のようなソフトスキルの変化を第三者の目から確かめやすいと考えられます。

運用の面では、対話の練習に静かな環境が要るため、窓口のブースや在宅勤務時の受講と組み合わせる設計が現実的です。自社の応対マニュアルやケースを取り込むカスタマイズにも対応できます。取り込む材料は、ここまで見てきたとおり、自社の問い合わせ記録から抜き出したもので足ります。顧客対応の分かれ目を扱いたい場合は、対話の進め方を題材にする営業研修(セールス研修)のカリキュラムが近く、繁忙期の交代勤務で集合研修が組めない状態にある人事部門に向いています。交代勤務や繁忙期で研修日程が組みにくい窓口の育成について、設計のご相談を承っています。

明日、問い合わせ記録を開くところから

外の手を借りるかどうかにかかわらず、この進め方で人事の手元に残るものは変わりません。応対マニュアルを厚くするほど、覚える量は増えていきます。それでも、迷いが生じる場面を通った回数のほうは増えないままです。分かれ目に絞って練習を積むと、手元には自社の顧客の言葉でできたケースの束と、誰がどの分かれ目をまだ通っていないかの記録が残ります。この二つは、次の繁忙期に何をどれだけ練習させるかを決めるときの材料になります。育成の対象を応対の全体から迷いの場面へ絞ったことが、いちばん効いてくるところです。

人材開発を担う担当者は、次のセール前に全員向けの一斉配信を用意する代わりに、前回詰まった解約と遅延のケースを配る順番を決めています。窓口のリーダーとは、受講率ではなく、どの分かれ目を何人が通ったかで進捗を確認します。繁忙期に品質差が再発したかどうかについても、同じ記録を見れば言葉にして説明できます。

まずは直近3か月の問い合わせ記録から、担当者が答えに詰まったやり取りを10件だけ抜き出すところから始められます。繁忙のたびに手を打ち続けてきた時間は、その10件を選ぶ目としてすでに積み上がっているはずです。自社の問い合わせ記録をもとにしたケースの作り方を含め、資料をご用意しています。ぜひこの記事でご紹介した進め方は、人材育成の現場でご活用いただければ幸いです。自社の窓口のスタイルに合った研修やトレーニングをお探しの場合は、いつでもご相談ください。

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